陸上自衛隊が実施する国内最大規模の実弾射撃演習「富士総合火力演習(総火演)」。コロナ禍以降は一般公開が中止され、現在はYouTubeライブ配信のみで全容を見ることができます。
筆者は元陸上自衛官(普通科)ですが、現役時代は総火演に参加したこともなく特に関心もありませんでした。今回ライブ配信を初めてフルで視聴し、元自衛官目線で気になった注目シーンや装備品を振り返ります。

富士総合火力演習とは
- 1961年に陸自富士学校(普通科・野戦特科・機甲科の教育機関)の学生に火力戦闘を教育する目的で開始
- 1966年から一般公開も実施
- 1972年に「総合展示演習」から「総合火力演習」へ名称変更
- 現在は自衛官・防衛大生・予備自衛官への教育+青少年・再就職援護協力企業への招待
- コロナ禍以降は一般公開中止、ライブ配信や映像での発信に
射撃部隊にとっては貴重な実弾演習、見学する自衛官には研修教育プログラム、一般の方々には自衛隊理解の機会となっています。
気になったシーン①:警務隊の装備

白ヘルにMPの腕章をつけた警務隊の装備が目を引きました。黒いアーマーベスト、レッグホルスター、そして全員が持っているビジネスバッグのようなもの。
警備中に書類を持つ意味がなさそうなので、銃弾の盾になる防弾バッグの可能性が高そうです。要人警護用装備とみられます。陸自の警務隊も警察のSPなどと連携することがあるのかもしれません。
気になったシーン②:着弾地域と距離感の重要性

陸上自衛官にとって「距離感を正確に読む」のは非常に重要なスキルです。地形の影響や目標との距離が離れるほど、正確な距離感覚を掴むのは難しくなります。
地図・コンパス・測量装置・距離測定機器などで補正しますが、最終的には目で見た感覚も重要で、目標発見・報告精度・射撃の正確さに直結します。
映像や写真では遠近感がつかみにくいデメリットがあるため、将来的に3DカメラやVR技術で体験的に再現できるようになれば、現場に足を運べない人にも火力戦闘のリアリティが伝わるのでは、と感じました。

映像中の「○○道」「○○の台」のような地名表現は、実際の訓練でも報告や命令で頻繁に使われます。例えば「1小隊は西道を前進、2小隊は中央道を…」のように、地名を覚えて使えることが前提です。
気になったシーン③:対戦車・誘導弾の登場
96式多目的誘導弾システム(MPMS)

こんな装備があるんですね。中多(中距離多目的誘導弾)とは違うようです。担当外の装備品にはあまり詳しくない、というのが正直な現実です。
中距離多目的誘導弾「中多(チュウ太)」

これは知っています。対戦車小隊の人が「これからはこれになる」と話していました。略称「中多(チュウ太)」ってネーミング、なんだか可愛いですよね。ミサイル積んだ車両がなぜ迷彩色に塗られているのかは謎です(知っている方教えてください)。
01式軽対戦車誘導弾(マルヒト)

マルヒトの射撃も初めて見ました。マニアックな視点ですが、誘導弾の的(ターゲット)の仕組みがどうなっているのか気になります。
気になったシーン④:迫撃砲・特科火力
迫撃砲は陣地進入から射撃までの早さが命
曲射弾道火器の登場シーンでは、陣地進入から射撃可能な状態までの時間短縮が重視されます。何度も訓練を重ねるところで、F1のピット作業を短くするイメージに近いかもしれません。
重迫の高機動車の後ろドアを半開きにしてすぐ降りられるようにしている細かさにも、現場の追求が表れていますね。
筆者は81mm迫撃砲担当でした。映像の赤いヘルメットが分隊長、青いヘルメットは射撃訓練での安全管理を任務とする安全係です。
弾薬手が弾薬に毛布をかけているのは、雨で泥跳ねが顔面をびしょびしょにするのを防ぐため。81迫の弾薬手はかなり気を使う配置です。
155mm榴弾砲(FH-70)の砲陣地

FH-70の数は圧巻で、砲間隔ギチギチでした。個人的に気になったのは次のポイント:
- 偽装網(バラキュー)の支柱に竹を使用:正式な擬装網用支柱(長さ調節可)もありますが重いので、軽くて丈夫な竹は気軽に使いやすい
- 単管パイプバリケードと2本の棒:弾着区域から照準が外れないよう外部からも見やすい安全管理装置
- 長射程の火砲は射程が長くなるほど着弾位置のずれが大きくなるため、狭い演習場しかない日本では安全対策が幾重にも
- コリメーターの脚に土のうを乗せる工夫も
元自衛官で使用していた火器の特性が近いと、こういう細かい創意工夫資材に目が行ってしまいます。
特科20門の緊急火力集中も圧巻。生で現地で見ると155mm榴弾砲がシュルシュルーと滑空する音が聞こえるはず。「砲弾が飛ぶ音って聞こえるんだ」と初めて聞いた時は驚いたのを覚えています。
気になったシーン⑤:陸自の新装備紹介
12式地対艦誘導弾能力向上型

話題の国産ステルス巡航ミサイルです。
島嶼防衛用高速滑空弾(HGV)

自衛隊の極超音速ミサイルです。「島嶼防衛用高速滑空弾」というネーミングがいかにも自衛隊らしい。高速で飛翔して敵の迎撃を回避する特性があり、イスラエルがイランに攻撃された際もアイアンドームで迎撃しきれなかった例があります。
共通戦術装輪車(機動迫撃砲型)
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気になっていた機動迫撃砲型がついに登場。発射シーンを見ると、車載しているのに反動がほとんどなさそうに見えます。
偵察警戒型

搭載している砲よりもレーダー・センサー・カメラ類が目立つ車両です。
対ドローンレーザー装置

自衛隊が開発している対ドローンレーザー装置。ドローン関連の話題は別記事でも触れています。
気になったシーン⑥:ヘリ・空からの火力
- UH-2:UH-1に似ているが、エンジン空気取入口の形状など違いがある独特のスタイル
- 偵察オートバイKLX250:日本向け生産終了後の調達状況が気になる(KLX230への更新可能性は別記事で考察)
- 連隊長役のナレーション:渋い声でライブコメントでも称賛多数。総火演レベルのナレーションは相当大変
- チヌークから降りてくる小銃分隊:高機動車に乗ったまま降下する姿勢は狙いにくいが、目立つ展示用と思われる
- オスプレイのコールサイン「ビーナス」:日本語読みのミサゴでも英語のオスプレイでもなく、なぜか女神に
気になったシーン⑦:F-2のJDAM投下

「やったフリの模擬かと思ってたら本当に訓練弾の投下をするんですね」と感心しました。陸自の演習場にも投下できるのかという驚きと、2機分のJDAMで着弾タイミングを合わせたように見えるところもポイントです(爆発は演出かもしれませんが)。
気になったシーン⑧:ウクライナを意識した塹壕戦闘

明らかにウクライナでの戦闘を意識した状況展示でした。アナウンスでもウクライナでの戦闘に絡めた解説があり、自衛隊もこの分野に注目していることがうかがえます。
塹壕の作りこみが綺麗
展示用の塹壕は通路の幅・深さがほぼ一定、土のうも隙間なくきっちり並べられています。塹壕戦が見直されているなら、演習場内に塹壕戦闘訓練所が今後できるかもしれません。
フラッシュバン(閃光発音筒)と20りゅう砲弾を使った障害

突入時に使われていたのは閃光発音筒(フラッシュバン)。安全ピンにカラビナをつけ、装具に紐でつなげる脱落防止処置がされています。
余談ですが、アニメで安全ピンを歯で引き抜くシーンがよくありますが、安全ピンの反対側は割ピンになっており、指でぎゅっとまっすぐにしてから引き抜くのが現実です。

「20りゅう砲弾を活用した障害?とは?」と思いましたが、内容を見ると事実上のIED。柔軟な運用方法のアイデアとして良い試みだと感じました。ドローンから投下する81mm迫撃砲弾のような展開もそのうち出てきそうな予感がします。
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まとめ
- 総火演は陸自の国内最大規模実弾射撃演習。コロナ禍以降はライブ配信のみ
- 元自衛官目線でも担当外職種の装備や運用は新鮮で勉強になる
- 新装備(12式改、HGV、共通戦術装輪車、対ドローンレーザー)が続々登場
- ウクライナを意識した塹壕戦闘展示・20りゅう砲弾IEDなど、現代戦の影響が色濃く反映
- これから入隊する人にとっても職種選択の参考になる映像
本記事の内容はYouTubeでも解説しています。あわせてご覧ください。



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