40度を超える猛暑が珍しくなくなった日本の夏。陸上自衛隊では一般的に6月から9月にかけて訓練が本格化する時期です。筆者が陸上自衛官として現役だった頃、夏の暑さで本当にキツかった瞬間を5つに整理してご紹介します。
以下の体験談はすべて筆者の現役時代の話です。実際に経験した立場から、自衛隊の暑さ対策の現状と課題を率直に書いています。

夏の自衛隊で暑くてキツかった瞬間5選
- ① 営内(独身寮)にエアコンが効かない
- ② 迷彩服が一年中同じ生地で夏用がない
- ③ 高機動車などの車両にエアコンがない
- ④ 防弾チョッキ着用時の汗疹地獄
- ⑤ 徒歩行進訓練(行軍)の熱中症リスク
① 営内のエアコン問題
陸上自衛隊では、若手の士・曹で独身の自衛官は駐屯地内の寮で集団生活を行います。これを「営内生活」といい、建物は「営内隊舎」、駐屯地に暮らす人を「営内者」と呼びます。
他の公務員や民間企業の独身寮と違い、一人一部屋ではなく複数人での集団生活が基本。筆者の部隊では一番少ない時でも5人以上が同じ部屋で過ごしていました。

夏に辛かったのは エアコンが実質効かないこと。厳密にはセントラル制御式の冷暖房はあったのですが、稼働時間が 0815〜2000頃。課業終了後に食事・トレーニング・風呂・洗濯・翌日の準備を済ませて「さあ部屋でゆっくり」という時間には止まっていました。
建物自体も古く断熱が不十分で、晴れの日は消灯前まで屋上がホットカーペットのように熱を持っている状態。空調が止まるとすぐに部屋温度が上がります。
消灯時には30度を超えていることがほとんど。対策は「点呼後に半袖・半パンになり、RVボックスやベッド棚に小型扇風機を直接体に当てて寝る」のが一般的でした。

新しい建物や新編部隊では断熱基準・冷暖房が現代的なので問題は少ないかもしれません。また防衛費の増額により生活隊舎へのエアコン設置が大々的に打ち出されており、今後はこの問題は解消されていく可能性があります。

② 迷彩服に夏用がない
陸上自衛官が着る迷彩服(戦闘服)は、基本的に一年中同じ生地・同じ厚さです。戦車部隊・空挺・水陸機動団など特殊環境向けの専用服はありますが、一般的な部隊では夏用は存在しません。
屋外使用を想定し、丈夫さ・耐熱加工(燃えにくさ)・赤外線暗視装置に発見されにくいIR加工が施されています。足元は半長靴というブーツ。夏に長袖・長ズボン+ブーツの装備で外にいるだけで汗だくになります。
対策としては迷彩服の上衣を半袖にする、吸汗速乾の高性能インナーにお金をかけるなどがありました。筆者は半袖だと日焼けで疲れて腕がパツパツになり窮屈なので、統制された時以外は半袖にしませんでした。

駐屯地内であまり危険でない作業時には、班長に「脱衣してもいいですか?」と真っ先に聞いてTシャツになって作業することが多かったです。
海外派遣用「防暑服」が国内で使えないのはなぜか
調べてみると、イラク派遣時から海外派遣用に「防暑服」という暑い地域向けの戦闘服があるようです。実物を見たことも触ったこともないので違いはわかりませんが、軽量化や通気性が改善されているなら国内でも夏用戦闘服として導入してもよいのではと感じます。

陸曹候補生試験の面接で「装備面の改善案はあるか」と質問された際、防暑服の国内導入を提案したことがありました。質問してきた4科長(補給・兵站を統括)には一蹴されましたが、特殊部隊経験のある別の幹部が黙って大きく首を縦に振っていたのが印象的でした。
③ 車両にエアコンがない
陸自の演習・訓練で使用する車両や装甲車は、一部を除いてエアコン未装備です。普通科部隊でメイン使用される高機動車には暖房はありますが、冷房はありません。仮に付いていても幌で覆われた車両なので効果は薄そうです。

長袖・長ズボンの装備で空調なしの車両に乗ることになります。対策は窓を全開にすることぐらい。トラックの荷台に乗ることも多く、後ろの幌が空いているのもこのためです。運転席・助手席では迷彩服の袖の面ファスナーを全開にして、窓から入る風を袖から取り込んでいました。
休憩中にこっそりエアコンが効いてキンキンに冷えているパジェロに行き、席が空いていれば「入れてください!」とお願いして涼んだ経験もあります。

高速道路や流れがある時は良いのですが、渋滞中は地獄。バイク乗りの方ならわかる、夏渋滞のあの熱気です。駐屯地に帰る時ならまだしも、これから1週間山で訓練が待っている往路だと、訓練前から体力を削られていく感覚で本当に辛かったです。
夏に自衛隊車両を見かけて窓が全開になっていれば、「エアコンなしで大変なんだな」と思ってあげてください。
④ 防弾チョッキで汗疹地獄
長袖・長ズボン迷彩服はあくまで基本装備で、作戦行動中はさらに上から戦闘用ヘルメット・銃・弾倉・銃剣・救急品などの基本装備品が加わります。担当によっては通信機や対戦車火器など、追加装備品も。
そのなかで夏に最もキツイのがボディアーマー(防弾チョッキ)です。砲弾や銃弾から体を守る装備で、5kg以上の重量、体を覆う面積も大きく、首元保護用プレートもついています(動きにくいのでほとんど外していました)。
迷彩服の上から着用するため、夏は10分も経てば迷彩服が汗でびしょびしょ。体に密着して熱がこもり、真夏は本当に厳しい状況になります。
忘れられない汗疹事件
夏本番前の演習で、山で状況に入っている間ずっと雨で雨衣を着ていました。敵接触が予想される時期から防弾チョッキを雨衣の上から装着、気温も高くなく雨でずぶ濡れだったので、2日間程度防弾チョッキを外さずに過ごしていたことがあります。
状況終盤、陣地変換や銃撃戦で走り回りかなり汗をかく状況に。戦闘が激しくなる少し前から体が痒く汗疹になっている感覚がありましたが、戦闘真っ只中で脱ぎ捨てるわけにもいかず我慢。
状況終了の合図が鳴る頃には、防弾チョッキで覆われた上半身が針で刺されているような激痛の汗疹に変わっていて、防弾チョッキ・雨衣・迷彩服上衣をとりあえず脱ぎ捨てた記憶があります。そこから1週間はベッドで横になるのも涙目になるほどの激痛でした。
この経験から個人的に強く思うのは、海外で主流のキャリアプレートのような重要部位のみを守るアーマーと、コンバットシャツ(ボディアーマー下に着る通気性重視の戦闘服)の導入の必要性です。特に夏は通気性と運動性能のほうが現場の継戦能力につながります。
⑤ 徒歩行進訓練(行軍)の熱中症リスク
大きな訓練の冒頭で行うのが徒歩行進訓練(いわゆる行軍)です。車両を使わずに部隊を作戦地域へ展開する能力を確認する訓練で、夕方頃に出発し、夜間に歩き続けて翌早朝に目的地到着するのが定番。その後の作戦行動が本番なので、行軍は訓練の初期段階に過ぎません。
距離は部隊によりますが、筆者がいた普通科部隊では大体45km前後を歩くことが多かったです。
(山口)_R.jpg)
個人的にはこの行軍が陸自訓練のなかで最も熱中症になりやすい状況だと感じます。筆者は行軍に強いほうでしたが、実際にぶっ倒れる人を最も多く見たのもこの訓練でした。
行軍がキツい3つの理由
- 装備の総重量:迷彩服+個人装備品+通信機/対戦車火器+水/着替え/必需品入りの背嚢
- 山道のアップダウン:演習場内の山道で激しい起伏
- 天候による湿度:曇り・小雨は晴天よりはるかにキツい

夜間は涼しそうに思えるかもしれませんが、天気で全く違います。晴れの日はからっとして汗も乾きやすく、放射冷却で朝方は涼しくなるため楽な印象。一方、曇りや小雨の日は湿度が高く、汗が蒸発せず体温調節がうまくいかないため、晴れより体力的に厳しく感じることが多かったです。
先輩方やレンジャーの方も含めて「今回はマジでキツかった」と語る行軍があり、その時に熱中症で動けなくなった人を衛生隊の救急車まで連れていったところ、すでに救急車内が他部隊で熱中症になり痙攣している人でいっぱいだった光景は少し怖かったです。

「少しでも調子が悪かったら申し出て辞めればいいのでは?」と思うかもしれません。しかしどんな状況でも任務を達成することが自衛官の仕事なので、ギリギリまで我慢して動けなくなるほどダウンしてしまう人が出るのが現実です。
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まとめ
- 営内のエアコンは課業終了後に止まり、消灯時は30度超え(防衛費増額で改善中)
- 迷彩服は一年中同じ生地で夏用がない、海外派遣用「防暑服」の国内導入を期待
- 高機動車などほとんどの車両にエアコンがなく、夏渋滞は地獄
- 防弾チョッキは熱がこもり、汗疹で動けなくなる経験も。キャリアプレート+コンバットシャツの導入が望ましい
- 徒歩行進訓練は熱中症リスクが最も高い、特に湿度の高い曇り・小雨が危険
- 正面装備だけでなく、個人装備の暑さ対策・軽量化が進むことを願う
本記事の内容はYouTubeでも解説しています。あわせてご覧ください。



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