自衛隊とインド軍の関係とは?日印交流・日本とインドの防衛戦略について

自衛隊

2025年4月、カシミール地方でのパキスタンインドに拠点をおくテロ組織からの攻撃を受け、インドはパキスタンのテロ組織への攻撃し、それにパキスタン軍が応戦する形で、5月以降戦闘が激化し、報道でも大きく注目を集めました。

精密爆撃や無人機(ドローン)による攻撃や偵察、対ドローン戦、電子戦部隊の投入など、高度な技術を駆使した戦闘が行われた一方で、榴弾砲や迫撃砲による砲撃戦、戦闘機による空対空戦闘、歩兵部隊による地上戦など、あらゆる局面での戦闘が展開されたようです。

そんな中、注目を集める両国ですが、特にインドと日本との関係は現在非常に深まっていることをご存知でしょうか?
防衛面においても日本の自衛隊とインド軍は、協力関係を強化し、共同訓練や防衛・経済面での対話を重ねるなど、政治的にも深い結びつきを築いています。

今回は、インドと日本の関係、特に防衛・安全保障に焦点を当てて、詳しく解説していきたいと思います。

インドと日本の関係の歴史

日本とインドの関係は、古代から現在に至るまで長い歴史を持ちます。その起源は、6世紀にインドから日本に仏教が伝来したことに遡ります。仏教の伝来を通じて、日本はインドの文化や思想に大きな影響を受けました。仏教の教えは、日本の宗教や哲学に深い影響を与え、両国の交流の基盤となりました。

古代から中世にかけて、日本とインドは主に間接的な交流を通じて繋がりを深めました。この時期、インドはシルクや香辛料、繊維製品を日本に供給し、日本からは金属製品や技術がインドに輸出されていました。これらの交流は、アジア大陸を通じた商業ネットワークの発展に大きな影響を与え、両国の絆を強化していきました。

近代的な日本とインドの交流が本格化したのは、明治時代(1868年~1912年)からです。当時、インドはイギリスの植民地でしたが、日本とインドは文化的な繋がりを深め、親善を促進するための活動を行いました。1903年には、大隈重信、長岡護美、渋沢栄一などの著名な政治家や実業家が中心となり、日印協会が設立されました。この協会を通じて、両国の文化交流が活発化し、絆が一層深まりました。が深まりました。

第二次世界大戦中、日本はインド国民軍を支援しました。インド国民軍はイギリス軍と戦うため、日本の支援を受けてインド独立運動を展開していました。戦後、インドはサンフランシスコ講和会議への参加を拒否し、独自に日本との講和条約を結びました。これにより、1952年に正式に国交が樹立され、インドは日本への賠償請求を全て放棄し、日本の復興を支援しました。

出典元:外務省 日印講和条約 第6乗請求権の放棄

その後、両国の経済や技術協力は急速に強化されました。
インドは日本のODA(政府開発援助)の最大の受取国となり、特にインフラ整備や技術移転、教育分野で協力が進んでいます。両国の経済的・外交的な絆は強固となり、インフラプロジェクトや自動車産業、IT分野での協力が顕著になっています。

出典元:外務省 ムンバイ・アメーダバード間高速鉄道イメージ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/17_hakusho/topics/topics01.html

近年では、防衛面でも日本とインドは戦略的パートナーシップを築き、共同訓練や防衛対話を通じて安全保障の強化に取り組んでいます。
インド太平洋地域における安全保障の重要性が増す中、両国は地域の安定に寄与するために協力を深めています。

防衛・安全保障分野での協力

現在、インドと日本は「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」に基づき、安全保障分野での協力を着実に強化しています。

特に、両国は「インド太平洋地域における日印の防衛協力(JIDIP)」という新たな枠組みを創設し、平和で繁栄した地域の実現を目指して協力しています。法の支配や航行の自由といった共通の価値観に基づき、協力の深化を図っています。

具体的な協力内容として、まず防衛当局間で協議体が設置され、協力の調整が加速しています。さらに、「ダルマ・ガーディアン」などの共同訓練が拡大され、陸・海・空の各軍種間での協力が強化されています。これにより、実戦的な連携が深まり、両国の相互運用性が高まっています。

インドは中東とアフリカを結ぶ重要なシーレーンの中心に位置しており、両国はその保護にも協力しています。シーレーンの安全確保は、インド太平洋地域の安定に欠かせない要素であり、両国はその重要な任務を共有しています。

また、東南アジア地域での連携も進展しており、ASEAN諸国との協力を強化し、地域の平和と安定を守るために共に取り組んでいます。

日印両国は、QUADやASEANなどの多国間枠組みを通じて、協力をさらに広げています。
特に、QUADは「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて重要な役割を果たしており、両国はこの枠組みを活用して、地域の安全保障環境を強化しています。

さらに、経済安全保障やサイバー、宇宙技術といった新しい分野でも協力が進んでおり、両国はこれらの新たな課題にも連携して対応しています。サイバー攻撃への対策や宇宙技術の共同開発など、近年の技術革新に合わせた協力が強化されています。

日本とインドは、共にインド太平洋地域の平和と安定、繁栄を確保するために取り組んでいます。両国の協力は単なる二国間の枠を超えて、地域全体の安定にも大きく寄与しています。

陸上自衛隊とインド陸軍の共同訓練「ダルマガーディアン」

陸上自衛隊とインド陸軍は、近年、共同訓練「ダルマガーディアン」を通じて相互理解と信頼関係を深めています。この訓練は、2020年にコロナウイルスの影響で中止された以外、2018年以降毎年実施されており、訓練内容や規模は年々進化しています。

出典元:陸上自衛隊 第一師団

初めて「ダルマガーディアン」が実施されたのは2018年、インドのミゾラム州にある対内乱・ジャングル戦学校でした。初回の訓練では、陸上自衛隊から第32普通科連隊2中隊(約30名)が、インド陸軍からは第1グルカライフル第6大隊(約30名)が参加しました。

訓練は小銃や拳銃、狙撃銃を使用した小隊同士で行われ、目的は対テロ戦術技量の向上と、両国間の相互理解・信頼関係を促進することでした。

出典元:陸上自衛隊 第一師団

2019年には、同じ訓練所で2回目の訓練が実施されました。この回では、陸自34連隊5中隊とインド陸軍のドグラ連隊18大隊が参加し、対テロ戦術やゲリラ戦、特殊部隊対処の技術向上が図られました。

その後、2021年には訓練場所がインドのカルナータカ州にあるコマンドトレーニングセンターに変更され、市街地訓練や実弾射撃訓練、総合訓練が行われました。参加部隊は、第30普通科連隊とインド陸軍の第15マラサ軽歩兵大隊で、それぞれ40名が参加しました。

2022年の訓練「ダルマガーディアン22」では、初めて日本国内での訓練が実施されました。
滋賀県の饗庭野演習場で行われ、陸自第36普通科連隊から約190名、インド陸軍第5歩兵大隊から約40名が参加し、市街地戦闘や対テロ訓練、指揮所活動を含む内容で行われました。

出典元:陸上自衛隊youtube

2023年には再びインドで訓練が行われ、ラージャスタン州のマハジャン・フィールドファイアリング・レンジで陸自34普通科連隊とインド陸軍第19歩兵大隊が参加しました。訓練は順調に進み、ますます実戦的な内容へと進化しています。

2024年の「ダルマガーディアン24」では、日本側での訓練が行われ、陸自東部方面隊・第一師団、陸上総隊・中央即応連隊、インド陸軍第48歩兵旅団第5大隊の約300名が参加しました。この回では、朝霞訓練場や東富士演習場で、計画策定、包囲、検問、空路潜入、IED対処、実弾訓練などが行われ、最終的には市街地でのテロリスト掃討訓練が公開されました。参加人数は過去最大となり、訓練の規模や内容も一層充実したものとなりました。

出典元:陸上自衛隊youtube

当初は小隊レベルでの交流にとどまっていた訓練も、年々参加人数が増え、指揮所訓練や空中機動、市街地戦闘など複雑で高度な内容に進化しています。このような進化は、両国間の信頼と協力の深まりを示しています。

ちなみに、「ダルマ」とはインド発祥の仏教用語で、一般的には「法」や「真理」を意味します。また、インドから中国へ仏教を伝えた達磨大師が由来となっており、現代日本では達磨人形としても知られています。訓練名「ダルマガーディアン」には、「法」や「真理」を守るという意味とともに、達磨大師の持つ「不屈の精神」が込められているのかもしれません。

海上自衛隊とインド陸軍の共同訓練「JIMEX」

海上自衛隊とインド海軍は、2国間および多国間での共同訓練を通じて連携を強化してきました。特に、2国間の訓練「JIMEX(Japan-India Maritime Exercise)」は注目されています。

出典元:海上自衛隊

JIMEXは2012年に初めて東京沖で実施され、主に人道支援・災害救援(HADR)や対海賊作戦を中心に、相互運用性の向上を目指して行われました。それ以降、両国は交互にホストを務め、定期的に訓練を実施しています。

訓練内容は年々高度化し、対潜戦(ASW)、対水上戦、空中戦、通信訓練、補給訓練など、実戦的な戦術訓練が強化されています。

2022年の「JIMEX22」(第6回訓練)はインド東岸のベンガル湾(ヴィシャカパトナム沖)で実施されました。インド海軍がホストを務め、海上自衛隊からは護衛艦「いずも」と「たかなみ」が参加、インド海軍からはステルスフリゲート「サヒャードリ」や対潜コルベット「カドマット」「カヴァラティ」、駆逐艦「ランヴィジャイ」、補給艦「ジョーティ」、哨戒艦「スカニヤ」、潜水艦、MIG-29K戦闘機、P-8I哨戒機、艦載ヘリコプターなど、多数の戦力が参加しました。

対水上・対空・対潜の複合戦術訓練が行われ、両海軍の高度な相互運用性が確認されました。この回は、日印国交樹立70周年とJIMEX開始10周年にあたり、記念的な意義もありました。

出典元:Indian Navy

2024年の「JIMEX」は、横須賀沖で実施され、日本側は護衛艦「ゆうぎり」と潜水艦、インド側はフリゲート「シヴァリク」が参加しました。

JIMEXは、sea phase(海上訓練)とharbour phase(港内訓練)で構成されます。
ハーバーフェーズでは乗員同士の交流を通じて相互理解と信頼を深め、シーフェーズでは、対潜戦、対水上戦、戦術データリンク演習など、ハイエンドな戦術訓練を実施し、連携を強化しています。

出典元:海上自衛隊X

また、インド海軍と海上自衛隊は、JIMEXのような2国間訓練だけでなく、多国間での訓練にも参加しており、インドが提唱する「インド太平洋海洋イニシアティブ(IPOI)」と、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の理念に基づき、海洋秩序の維持に協力しています。

航空自衛隊とインド陸軍の共同訓練「ヴィーアガーディアン」

航空自衛隊とインド空軍は、近年、戦術技量の向上や相互理解、防衛協力を目的とした共同訓練を実施しています。特に注目されたのは、2023年1月に日本国内で初めて行われた戦闘機共同訓練「ヴィーア・ガーディアン23(Veer Guardian 23)」です。

出典元:百里基地X

この訓練は、2019年にデリーで開催された日印外務・防衛閣僚会議(2+2)で戦闘機共同訓練の実施が合意された後、コロナ禍の影響で延期を経て、2023年1月に百里基地で実施されました。

訓練には、航空自衛隊の航空戦術教導団飛行教導群(小松)のF-15戦闘機4機、第7航空団第3飛行隊(百里)のF-2戦闘機4機、中部航空警戒管制団(入間)などが参加しました。
インド空軍からは、西部航空コマンド第220飛行隊のSu-30 MKI戦闘機4機、同81飛行隊のC-17輸送機2機、中央航空コマンド第78飛行隊のIL78空中給油機1機と、約150名が参加しました。

訓練内容は、空対空戦闘、指揮・管制、輸送機および空中給油の運用ノウハウの共有など、多岐にわたる戦術訓練が行われました。特に、日印国交樹立70周年の節目に、また国内でのロシア製戦闘機との初の共同訓練として注目を集めました。

さらに、2023年3月には小松基地で「シンユウ・マイトゥリ23」という日印輸送機共同訓練も実施されました。この訓練では、戦闘機部隊に続き、輸送機部隊の航空輸送能力向上や部隊交流を通じた相互理解の促進が進められました。

出典元:航空自衛隊

2024年には、インド主催の多国間空軍演習「タランシャクティ」に、航空自衛隊のF-2戦闘機と空中給油機が参加予定でしたが、シンガポールに寄港後、天候不良と給油機の不具合により参加を断念しました。

まとめ

ここまで、自衛隊とインド軍との共同訓練について見てきましたが、陸・海・空それぞれの自衛隊部隊が行う訓練を通じて、交流や相互理解が着実に深まっていることが分かったかと思います。

歴史的に長い関係を持ち、民主主義や法の支配といった共通の価値観を共有する日本とインドは、今後、経済や安全保障の分野でも、ますます重要なパートナーとして連携を強化していくことが予想されます。両国の協力は、これからもアジア太平洋地域の安定と繁栄に大きな影響を与えるでしょう。

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