ドイツ連邦軍はH&K製P8の後継として、新制式拳銃「P13」にチェコCZ社のCZ P-10Fを採用しました。2025年7月に契約承認され、最低6万2千丁・最大18万6千丁を7年間で調達する大型契約です。
なぜ国内にH&KやWaltherがある中で、チェコ製が採用されたのか。採用経緯・主要スペック・現行P8との比較・ライバル拳銃(グロック17/Arex Delta)まで整理します。

結論:「価格100%」の公平入札でチェコ製CZが勝利
- P13 = CZ P-10F(チェコCZ社のフルサイズモデル)
- 現行H&K P8(1994年採用)を更新
- 7年契約で最低6万2千丁、最大18万6千丁を調達
- 入札は価格100%の重み付けで、CZがGlock・Arex Deltaを破って勝利
- 装弾数は15発→19発へ、拡張性・光学サイト対応で現代化
- EU公共調達規則により国産メーカー優遇は不可、合理的な選定
採用経緯:14件19億ユーロの予算パッケージの一つ
ドイツ連邦議会は、軍強化のための総額19億ユーロ超・14件の提案に関する予算を承認。このなかに新標準拳銃「P13」の調達が含まれています。
- 2024年11月:連邦軍装備局が入札開始
- 2025年1月:入札締め切り、最終候補はCZ/Glock 17/Arex Delta
- 選定基準は価格が唯一、100%の重み付け
- 2025年7月:契約承認、ホルスターなど携行システムも同時調達


P13(CZ P-10F)の主要スペック
CZ P-10シリーズには3つのフレームサイズがあります。
- F(フルサイズ):今回採用されたモデル
- C(コンパクト):小型モデル
- S(サブコンパクト):さらに小型、銃身長も短い



| 使用弾薬 | 9×19mm |
| 装弾数 | 弾倉19発+薬室1発=最大20発 |
| 安全機構 | トリガーセーフティ、自動撃針ブロック、トリガーバーセーフティ(マニュアルセーフティなし) |
| 両手操作対応 | 両サイトのスライドストップ、マガジンリリース左右変更可 |
| グリップ | 3種サイズ交換可能な後部パーツ |
| 照準器 | 発光/トリチウムドット入り照星・照門 |
| レール | フレーム下部先端にライト・レーザーサイト用レール |
| フレーム | グラスファイバー強化ポリマー |
| スライド/バレル | 窒化処理、冷間鍛造銃身 |

派生モデルの拡張性
ドイツ軍採用モデルはフルサイズですが、CZ P-10シリーズには以下の拡張モデルもあります。
- Optics Ready(光学機器対応):スライド上面をマウントプレートに交換し、ドットサイトなどを搭載可能
- SR(サプレッサーレディ):バレル先端にネジ山加工、コンペンセイターやサプレッサー装着可


P8からP13へ:何が進化したのか
現行P8(H&K USP派生型)の概要
P8はヘッケラー&コッホ社製USPの派生型で、近距離自衛用や機関銃手・狙撃手の副武装として1994年に採用されました。

通常のUSPとの主な違いは次の2点です。
- 半透明の弾倉を採用
- コントロールレバーの順序が通常USPと逆(上から射撃・安全・デコッキング)で、先代ワルサーP1の操作感に近い


- 使用弾薬:9×19mm弾
- 装弾数:15発
- 重量:750g(空)、985g(15発装填時)
- 弾倉・フレームはポリマー製、マガジンリリースは左右操作可
- 工具なしで主要部品に分解でき、清掃・整備が容易
P8とP13の比較
| 項目 | P8(H&K USP) | P13(CZ P-10F) |
|---|---|---|
| 装弾数 | 15発 | 19発+薬室1発 |
| 光学サイト対応 | なし | Optics Readyモデルあり |
| フレームレール | 独自規格 | ピカティニー・レール |
| グリップ調整 | 限定的 | 後部3サイズ交換可 |
| フレーム | ポリマー | グラスファイバー強化ポリマー |
| サプレッサー対応 | なし | SRモデルあり |
採用から30年以上経過したP8の更新として、装弾数増加・拡張性・現代的な運用要求への対応が大きな進化点です。
ライバル拳銃:グロック17/Arex Delta
グロック17(オーストリア)
世界的に広く使われるポリマーフレーム製ストライカー拳銃の代表格。第5世代以降のGlock 17がP13候補に挙がりました。

- 使用弾薬:9×19mm
- 装弾数:17+1発
- 銃身長:114mm(4.49インチ)
- 全長:約202mm
- 重量:約710g(マガジン装着・空)
- 手動安全装置なし、3重の自動安全機構
- 第5世代以降は左右両用スライドストップ、ピカティニー互換レール標準装備



総合的な完成度で最後まで候補に残りましたが、価格競争力で他社に及ばず採用を逃しています。
Arex Delta(スロベニア)
2019年登場のポリマーフレーム・ストライカー式9mm拳銃。

- 装弾数:15+1発(標準モデル)、銃身長4インチ級
- 作動方式:ショートリコイル(ブラウニング式ティルトバレル)
- やや長めの段階的トリガープルで誤射防止
- アンビマガジンリリース/スライドストップ標準装備
- フレーム先端に2スロットのアクセサリーレール
- スライド標準で光学サイト対応(複数種マウントプレート付属)
- 装填済み重量800g未満と軽量、低い銃身軸による反動制御良好
低価格ながら高性能というコストパフォーマンスが評価されて最終候補に残りましたが、最有力のCZに競り負けました。
なぜ国産H&K・Waltherではなく海外製なのか
ドイツ国内にはH&K社やWalther社という世界的な拳銃メーカーがあるにもかかわらず、海外製CZが採用された点は興味深いところです。

背景には、ドイツがEU加盟国であることによるEU公共調達規則があります。ドイツ連邦軍のような公的機関は、EUの厳格な公共調達規則に従う義務があり、EU圏内の企業(チェコのCZ、オーストリアのGlockなど)にも公平な入札機会が提供されます。
国産メーカーだからといって優遇することは法的に許されません。長年H&K製品を主力としてきたドイツ軍が他国製を採用したのは、特定の国内メーカーに依存せず、グローバル市場における最良のコストパフォーマンス製品を、公平な競争原理に基づいて選定した結果といえます。
参考:日本の新拳銃SFP9との対比
日本の自衛隊も最近、新拳銃としてドイツH&K社のSFP9を採用しました。日本には拳銃を開発・生産するメーカーがないため海外製が必然ですが、ドイツは国内メーカーがあるにもかかわらず海外製を採用した点で対照的です。

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まとめ
- ドイツ連邦軍の新拳銃P13はチェコCZ社のCZ P-10Fを採用
- 7年契約で最低6万2千丁、最大18万6千丁を調達
- 入札は価格100%の基準でCZがGlock・Arex Deltaに勝利
- 装弾数19発、ピカティニーレール、光学サイト対応など現代戦対応に進化
- EU公共調達規則により、国内H&K・Waltherの優遇は法的に不可
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