ロイヤルウイングマンという言葉を聞いた事をありますか?
人が操縦する戦闘機とともに行動する「忠実な僚機」として機能する無人の自律型無人航空機をさす言葉です。

コラボレーティブ戦闘機「CCA」Collaborative Combat Aircraftという名称でも呼ばれることがあります。
現代の戦闘においてドローンなどの無人機の運用は当たり前になりつつあり、戦闘機を用いた航空戦闘においても研究開発がすすんでいます。
そんな中、実戦配備を目前にした国が存在します。それはオーストラリアです。
意外にもアメリカではなくオーストラリアが開発中のMQ-28Aゴーストバットという無人機の開発が進み、世界初の実践配備国になろうとしています。

今回はオーストラリアのロイヤルウイングマンに注目してみたいと思います。
半世紀ぶりのオーストラリア開発の航空機
MQ-28A「ゴーストバット」とはオーストラリア空軍向けに、ボーイングオーストラリアが開発中の、随伴型の無人戦闘機(ロイヤルウイングマン)です。

オーストラリアにとっては約半世紀ぶりに自国設計・開発された航空機になり国内の航空産業復興を象徴する存在にもなっています。
開発コードは当初「Airpower Teaming System (ATS)」と呼ばれ、のちにオーストラリア空軍での正式名称はMQ-28Aゴーストバットと命名されました。
ゴーストバットとはオーストラリア北部に生息する実在のコウモリで、非常に大きな耳を持ち、視覚と聴覚が優れています。

オーストラリアのコウモリで唯一、鳥や昆虫、他の哺乳類などを捕食することで知られています。
名前の由来となったゴーストバットが集団で生活し、狩りを行う習性が、本機の有人戦闘機など行動するチーム戦、複数のセンサーや機体が連携して目標を探知・攻撃するコンセプトにちなんでいます。
開発の背景と体制
MQ28はボーイングのオーストラリア部門が中心となり、オーストラリア空軍の支援と資金提供を受けて共同開発されています。

初号機は2021年2月に初飛行し、続いて3機の試験機が同年中に初飛行を達成しています。
その後試作機は契約拡大により6機体制にまで増強されました。
また、クイーンズランド州トゥーンバ近郊には、専用の生産施設も整備されています。

この拠点はウェルキャンプ(Wellcamp)地区に設置され、航空輸送に加え、鉄道や港湾へのアクセスも見込める立地で、巨大なビジネス拠点としての発展も期待されています。

さらに、ボーイング社が北米以外に最終組立の生産拠点を設けるのは初の試みであり、オーストラリア政府やボーイング社の力の入れようがうかがえる、特徴的な点となっています。
契約・配備についても段階的に拡大しており、2028年度までに運用開始を目指しています。
開発体制はアメリカ大手企業ボーイングが主体ではあるものの、「オーストラリア初の無人戦闘機を自国で製造する」という国家プロジェクトとして進められました。
ボーイングは設計・システム統合を担い、オーストラリア空軍が要求定義や資金提供を行う形で緊密に協力しています。
製造にはオーストラリア国内のサプライヤーも多数参画し、先進的なデジタルエンジニアリングや自動ロボット組み立て技術を導入することで、従来比でコスト削減と迅速な開発を実現しました。

これは比較的コストパフォーマンスに優れる装備品を短期間で揃えるという、この機体のコンセプトにも合致しており、将来の同盟国への導入や、協力開発モデルとしても注目されています。
MQ-28Aゴーストバットの特徴
MQ28Aの最大の特徴は高い自律飛行能力とネットワーク戦闘への適正です。
機首にはAIベースのシステムが搭載されており、有人機からのこまやかな指示なしに状況判断や編隊飛行が可能です。
有人機パイロットが大まかな指令を与えれば、AIが最適な機動や任務遂行手段を自律的に選択する設計で、これにより複数機の無人機が「忠実な僚機」として有人機を支援します。
必要に応じて完全自律飛行もでき、人が操作不能な環境下でも、任務継続が期待できます。
機体設計は最新のステルス技術を取り入れており、全長約12メートルの流線型のボディと内臓式の兵装、センサー配置によってレーダーなどによる被探知性を低減しています。
胴体側面にエアインテークを持つ無尾翼に近いシルエットで、レーダー反射面積(RCS)を抑える形状です。

またMQ28Aはモジュール式構造を採用している点でも革新的です。機首(ノーズ)部分ををまるごと着脱・交換できる設計となっており、任務に応じてセンサーパッケージや兵装ユニットを積み替えられます。
例えば対空戦闘用のレーダー・ミサイル搭載ノーズ、対地偵察用の光学センサー搭載ノーズ、電子戦用ジャマー機材搭載ノーズ等を迅速に交換可能で、1機種で多彩な任務に対応します。

機体システムもオープンアーキテクチャで構築されており、新たなセンサー、通信モジュールの追加やソフトウェア更新による能力向上が容易に図れるよう設計されています。
武装面では具体的な搭載兵器の詳細は公表されていないものの、内部ウェポンベイに空対空ミサイルや対地攻撃用弾薬を搭載可能とみられます。
現段階の試験機(ブロック1・ブロック2)は将来運用されるモデル(ブロック3)とは異なり、機体にはウェポンベイが搭載されていません。
今後ブロック3の開発において機体の大型化、それによる燃料搭載量増加・航続距離拡大、ウェポンベイの搭載が予定されています。
ステルス性維持の観点からは、兵装は基本的に機内搭載が望ましい一方、任務によっては外部ポッドや翼下ハードポイントに増槽、追加センサー等を装備する柔軟性もあります。
航続距離は3700km以上と公表されており、遠方の前線や、広大な海洋上空での任務にも対応可能です。
ターボファンエンジン1基で亜音速巡航を行い、有人戦闘機に追従できる速度・高度性能を確保しています。
通信・センサーネットワーク面では味方の戦闘機やAWACS(早期警戒機)と高速データリンクで連接し、取得した目標情報やレーダー情報をリアルタイムで共有します。
複数のゴーストバット同士も相互に通信しあい、分散ネットワークを形成することで、従来1機では得られなかった広域情報把握や複数点からのレーダー探知によるステルス機探知なども期待できます。
運用コンセプトと開発進捗
MQ28Aは単独でも運用できますが、特に重視されているのが有人戦闘機の忠実な僚機「ロイヤルウイングマン」としての役割です。
具体的な運用想定として、F35やFA18F戦闘攻撃機の編隊に随伴し、前方で敵の脅威を探知、分類して母機に共有するリモートセンサーの役割があります。
あるいは敵防空網に先行侵入してレーダー波を囮受信するデコイジャマーとなったり、必要に応じて敵のミサイルの標的となって母機を守る「盾」となることも想定されています。
オーストラリア空軍はMQ28をE7A早期警戒管制機(ウェッジテイル)や空中給油機など非戦闘支援機の護衛にも用いる構想を持ち、有人機ではリスクの高い空域へ無人機を先行させることで損耗を防ぐ狙いがあります。

開発試験は極めて順調に進んでおり、2021年の初飛行以来、2025年3月までに累計100回以上のテストフライトを実施しています。
シュミレーター上のデジタル試験も延べ2万時間に達し、AIの自己学習や編隊アルゴリズムの熟成が図られました。
そして2025年12月にはボーイングオーストラリアとオーストラリア空軍はMQ28AからAIM120アムラーム空対空ミサイルを発射し、高速標的機を撃墜することに成功したと発表しました。

この試験ではMQ28A一機がE7Aウェッジテイル管制機およびFA18F戦闘機とデータリンクで連携、3機はそれぞれ別の場所から離陸し、MQ28は離陸後にE7Aのオペレーターが遠隔管制しました。

まずF18が敵役の高速標的を探知・追尾し編隊内で目標データを共有、するとMQ28は自己位置を最適化して攻撃態勢に入りました。

管制オペレーターから交戦許可を受けると、MQ28は自律飛行モードのままアムラームを発射、ターゲットを撃墜しました。
高度なAIとネットワーク連携によって、有人機と無人機が一体となって航空目標を排除できることを示したこの成功は、米中露を含め他国でもまだ公表されておらず、世界初の快挙となる可能性があります。
今回の実験成功でMQ28Aゴーストバットは単なるセンサーやデコイにとどまらず「自ら戦う無人戦闘機」としての実力を実証したことになります。
以上のようにMQ28Aは着実に開発マイルストーンを達成しており、オーストラリア空軍は2028年頃までに初期作戦能力を獲得して世界で初めて実戦型のコラボレーティブ戦闘機(CCA)の運用国になる見通しです。
初期ロット6機配備後は有人機1機あたり複数機の無人機を従える編成を試験し、将来的にはF35など1機につきゴーストバット2から4機という編隊も検討されています。
また、開発元のボーイングは「必要に応じ市場次第で米国など海外でも生産する可能性がある」と述べており、本機が同盟国にも輸出・共同運用されていく可能性があります。
現在オーストラリア海軍が日本のもがみ型護衛艦の導入を決定し、オーストラリア軍と自衛隊との間で共同訓練も行うようになってきています。
オーストラリアでの配備後にも日本での共同訓練や、次期戦闘機開発においても何かしらの話題になる機体かもしれません。


コメント