今回は、イタリアの銃器メーカー・ベネリが発表した“対ドローン用ショットガン”、M4 A.I. Drone Guardianについて解説します。
近年の陸上戦闘ではドローンが偵察用でけでなく、敵陣地や戦車を正確に狙い、直接攻撃するという新しい戦い方がどんどん増えています。そんなニュース映像を見た方も多いのではないでしょうか?
ウクライナでの映像を見て、軍事用ドローンだけでなく、民生品のドローンまでも活用した戦闘の映像に、ここまでの脅威なのかと私自身驚きました。
兵士たちは、空から飛んでくるドローンの音に怯えながら、対策に追われていると言われています。
そんな中イタリアの有名銃器メーカー、ベネリから新しい銃が発表されました。対ドローン用に作り出された散弾銃、いわゆるショットガンです。最前線でのドローンに対応する最後の手段として効果的であると謳っています。
この記事では戦場でのドローンの脅威や、その対応策など、元陸上自衛官の視点からも解説していきたいと思います。
ベネリM4 A.I. Drone Guardian
今回紹介するのは、イタリアの銃器メーカー「ベネリ」が開発した、対ドローン用のショットガン「M4 A.I. Drone Guardian」です。
まずは、ベースとなっているM4について簡単に解説します。

ベネリM4は、アメリカ海兵隊をはじめとした世界中の軍や法執行機関に採用されている実績あるコンバットショットガンで、その特徴は高い信頼性と過酷な環境でも動作する頑丈さです。
ベネリ独自の「ARGO(Auto Regulating Gas Operated)」システムを採用し、自己洗浄機能と自動圧調整によって、安定した作動とメンテナンス性の高さを誇ります。

そして、今回の「M4 A.I. Drone Guardian」は、そのM4をベースに、現代戦で急増しているドローンの脅威に対抗するために設計されたモデルです。
近年、ウクライナでの戦闘をはじめとする現代の戦場では、FPV(ファーストパーソンビュー)ドローンによる攻撃が大きな脅威となっています。
小型で安価なFPVドローンは、手榴弾や即席爆弾を搭載して低空飛行で奇襲攻撃を仕掛け、従来の防御手段では対応が難しい存在になっています。
そんなドローンに対して、最後の砦となるのがこのショットガンです。
「M4 A.I. Drone Guardian」は、ベネリ社のテクノロジー「Advanced Impact(A.I.)」を搭載しています。人工知能のAIではなくアドバンスド・インパクトと言う名前の技術で、銃身内部のコーン形状を最適化し、従来のショットガンと比べて、より長距離かつ高精度な散弾の拡散を実現しています。
特に、12ゲージの4/0バックショットを使用することで、約50メートルの距離でもドローンに有効打を与えることが可能。さらに条件が良ければ100メートルの距離でも迎撃できる設計となっています。
この射程と命中精度は、通常の拳銃や自動小銃では難しいドローン迎撃に対して非常に効果的です。
あくまで最後の防御手段として、兵士自身の生命を守るための切り札になる装備品です。
デザイン面では、銃身長は18.5インチと26インチの2種類、状況に応じて選択可能で、前者は前線での個人携行、後者は基地防衛などに適しています。

外装は耐腐食性に優れたセラコート処理が施されており、厳しい環境下でも高い耐久性を発揮します。レシーバーもブラックアノダイズ仕上げで、サビや傷に強い仕様です。
被筒部はアルミ製で、M-LOKとピカティニーレール(ウィーバーレール)を備え、拡張性も高く、アクセサリーの装着が可能。
サイトにはホロサイトとゴーストリングサイトが標準装備されており、素早いエイミングとターゲットへの対応ができます。

マガジンチューブは、標準で2-3/4インチシェルが7発、3インチシェルが6発装填可能。さらに1発薬室に装填できるので、合計で最大8発の即応が可能です。
銃床は5段階で調整可能な伸縮式で、携行時や輸送時にはコンパクトに収納でき、必要に応じて素早く展開可能です。
戦場におけるドローンの種類と脅威
近年の戦場では、ドローンが新たな脅威として急速に台頭しています。ただ「ドローン」と言っても、その種類は多岐にわたります。
まず一つ目は、大型の軍用攻撃型UAVです。たとえば、ロシアの「オリオン」や、アメリカの「MQ-9リーパー」などが代表的で、高高度からの偵察や爆撃、ミサイル攻撃を行うことができます。

これらは長時間の飛行が可能で、強力な兵器を搭載しており、有人戦闘機と同等、あるいはそれ以上の戦術的価値を持つと言われています。
二つ目は、イラン製「シャヘド136」やロシア製「ランセット」といった巡航型ドローン、いわゆる「自爆型ドローン」です。これらは比較的小型で、あらかじめターゲットを設定し、自爆することでダメージを与えることを目的としています。
特にウクライナでロシアがイラン製シャヘドを使用していることが注目され、安価で大量投入が可能なため、防御側の対応が非常に難しくなっています。

そして三つ目が、今回紹介したショットガン、M4ガーディアンで対応できるドローンは「FPV(First Person View)ドローン」と呼ばれるものです。これは、一般的な民生品を改良し、リアルタイムで映像を見ながら操縦できるという特性を活かしたものです。安価でありながら、非常に高い機動力と即応性を持ち、戦場では「空飛ぶIED(即席爆弾)」として使用されています。
パイロットはゴーグルを装着し、まるでその場にいるかのような視点で操作し、爆薬を積んだドローンを敵の戦車や塹壕、さらには兵士個人を狙って突入させることが可能です。
これらFPVドローンは、非常に低空・高速で飛行し、遮蔽物をすり抜けることができるため、従来の対空火器やミサイルでは迎撃が困難です。加えて、電子戦装備によるジャミングも効果はあるものの、周波数の変更や自律型航法、さらには光ファイバーケーブルによる有線ドローンの登場によって突破されるケースも報告されています。
さらに重要なのは、これらFPVドローンの「低コスト・大量生産」の特性です。市販のパーツや3Dプリンターを活用すれば、比較的短時間かつ安価に機体を製造でき、運用部隊の創意工夫によって改良され続けています。特にウクライナでは、現場の兵士が自作・改造したFPVドローンが次々と投入され、その柔軟さと実戦での即応力が証明されました。
そしてもう一つの特徴は、心理的な影響です。常に上空から狙われるというプレッシャーは、兵士の士気や行動に大きな影響を与えます。FPVドローンは爆弾投下や突撃だけでなく、偵察や妨害などでも用いられ、戦場の「目」としても機能しています。
そこで注目されているのが、今回紹介している「M4 A.I. Drone Guardian 」などのショットガン、散弾銃です。個人や分隊レベルで配備でき、電子戦などに影響されないアナログな最終手段として利用価値が高まっているようです。至近距離まで接近してくるFPVドローンに対しては、広範囲に散弾をばら撒くショットガンが最適です。高密度のペレットによる弾幕は、ドローンの推進プロペラや電子機器にダメージを与え、確実に無力化することが期待されています。
戦場におけるドローンへの対処法
近年、ドローンは戦場での重要な脅威となりつつあります。特に、ロシア・ウクライナ戦争や中東での紛争では、FPVドローンによる自爆攻撃や偵察任務が急増しており、既存の防御システムでは対処しきれないケースが増えています。そこで今回は、こうした脅威に対抗するための具体的な対処法について解説していきます。
撃墜による無力化
ドローンを直接撃墜する方法は、依然として基本的かつ有効な対処手段のひとつです。
小火器による射撃、対空ミサイル、高エネルギーレーザー兵器、さらには高出力マイクロ波兵器といったハードキル手段が存在します。
最近では、イスラエルの「アイアンビーム」やアメリカ海軍のレーザー兵器「LaWS(Laser Weapon System)」のように、コストを抑えつつ即応性に優れるシステムが注目されています。レーザー兵器は、電力確保というデメリットはあるものの、弾薬補給が不要で、目標までの直線距離で即時に攻撃が可能なため、遠距離での撃墜に向いていると言えるでしょう。

また、アメリカ空軍が開発している「THOR(Tactical High Power Operational Responder)」は、高出力のマイクロ波を照射し、敵ドローンの電子回路を破壊することで、まとめて無力化できる能力を持っています。これにより、ドローンによる集団攻撃(ドローンスウォーム)にも柔軟に対応可能となっています。
物理的防御と妨害
物理的な防御手段としては、ネットガンやドローン自体に捕獲用ネットを搭載する例が挙げられます。イギリスの「SkyWall Patrol」は、ネット弾を使って敵ドローンを絡め取ることができます。

またウクライナでの映像を見ると、ドローン対策として偽装網や防護ネットを車両上部や、掩体の上部を覆ったり、道路上などにネットを構築することで対ドローン回廊を作るなどした、ドローンの直撃を防ぐ工夫が見られます。
電子的な妨害
電子戦の分野では、ジャミング技術が最も一般的な対処法です。ドローンと操縦者の間にある無線リンクやGPS信号をジャミングし、ドローンを無力化します。
代表的な機材としては、オーストラリアのDroneShield社が提供する「DroneGun」シリーズや、イスラエルの「Drone Dome」があります。
ジャミングのメリットは、非破壊的で再利用が可能な点ですが、対策として電波干渉に強い制御システムや自律飛行モードを搭載したドローン、光ファイバーケーブルを搭載した有線ドローンも登場しており、ジャミングのみでは対応しきれない場面も増えています。
そのため、ジャミングと物理的な迎撃を組み合わせた多層防御が主流となりつつあります。
偽装・隠蔽
究極的なドローン対策は、「そもそも敵から見つからないこと」だと個人的に思います。
FPVドローンや自律飛行ドローンは、標的の探知情報に基づいて攻撃してくるため、地上部隊や施設の発見を遅らせることが重要です。
擬装や隠蔽、さらには通信機器による電波の発信を抑えたステルス行動によって、敵の監視網から隠れる努力が求められています。
陸上自衛隊の訓練でも地形を考慮した陣地の選定や、掩体を掘ったあとの植生による偽装、上空からの監視に対しても自然の植生を利用したり、擬装網を展開したりします。
これらは基本的な野戦での技術ですが、ドローンなどの新しい戦術に対抗するためにも、改めて重要な技術だと現場の自衛官は思っているのではないかと思います。
現在はレーザーや高出力マイクロ波といった新技術が進展しつつありますが、これらの導入にはコストやエネルギー供給の課題も存在します。
各種手段を組み合わせたハイブリッドな防御体制を構築することが、今後は求められているので、今回紹介したようなショットガンによる防御手段も重要な手段の一つなのかもしれません。
日本のドローン対策と装備
日本の自衛隊や警察でのドローン対策についてどうなっているのでしょうか?
まず、自衛隊における対ドローン装備ですが、現在のところ現場部隊レベルで配備されている装備は公開されていません。特にショットガンのような個人装備による対処手段は採用されていません。
経験上、普通科部隊での対空戦闘ではPSAM(91式携帯地対空誘導弾)もしくは重機関銃による対処がメインになるかと思います。
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より専門的な対空部隊である高射特科部隊では地対空誘導弾(ミサイル)と高射機関砲による対処になると思います。このように敵の大型の固定翼機や回転翼機(ヘリコプター)などへ対処する装備品がメインであり対ドローン専用の装備品はありません。
自衛隊では、ドローン対策の必要性が認識されているものの、その主な対応は現在開発段階にとどまっている状況です。
たとえば、防衛装備庁では高出力レーザーや高出力マイクロ波(HPM)による対ドローンシステムの研究開発が進められています。特に高出力レーザーは、精密照射による物理破壊を目的としており、現在は車両搭載型の実証装置などが公開されています。しかし、実戦配備は今後数年を要する見通しとされています。
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一方、警察ではドローン対策がより進んでいます。
警備部門ではすでにジャミングガンやジャミング装置の導入が報道されており、大規模イベントや要人警護の現場などで実際に運用されています。たとえば、東京オリンピックや国際サミットなどの際には、警察がジャミング装備を使用してドローンの侵入を防いでいるといわれています。
また、ネットランチャー、迎撃ドローンの捕獲装備も警察で導入されており、これはドローンを直接物理的に捕獲し無力化するためのものです。ただし、これらの装備の詳細な運用実態については、防犯やセキュリティ上の理由から公開されていません。
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なお、警察の特殊部隊、いわゆるSAT(特殊急襲部隊)やERT(緊急対応部隊)などでは、近距離での強行突入作戦の一環としてショットガンを装備しているため、理論上は対ドローン用途にも使用可能と考えられます。しかし、対ドローン専用としての運用は確認されていない状況です。
総じて、日本におけるドローン対策はまだ発展途上であり、現場で即時対応できる装備やシステムの整備は今後の課題と言えるでしょう。
現時点では、やはり警察の警備や警護任務においての対策が主流であり、自衛隊での本格運用はこれからという印象です。
まとめ
今回は、イタリアの銃器メーカー「ベネリ」が発表した対ドローン用ショットガン「M4 A.I. Drone Guardian 」を中心に、戦場におけるドローンの脅威や、その対抗手段について解説してきました。
ドローンがもたらす新たな脅威に対し、各国がジャミング装備やミサイル、レーザーなど様々な手段を模索する中で、あえて“ショットガン”というアナログな選択が再注目されているのは、非常に興味深いポイントです。近接での即応力や信頼性を重視した対策は、現場レベルでの最後の盾ともいえるでしょう。
また、日本においても、自衛隊や警察でドローン対策が急務とされており、今後は高出力レーザーやマイクロ波兵器などの導入が進むと考えられます。ですが、現場での実用化にはもう少し時間がかかりそうです。
現場レベルでの対ドローン装備を早急に整備する必要がある場合、コスト面を考慮すると、ショットガンを採用するという選択は現実的で有効な手段と言えるのかもしれません。
もしかするとクレー射撃が対ドローン射撃の訓練としても有効な手段となるかもしれないですね。
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