ドイツ連邦議会はドイツ軍の強化に関する総額19億ユーロを超える14件の提案に関する予算を承認しました。
この中にはドイツ軍の新たな標準拳銃としてP13拳銃が選定され、アクセサリーと携行システムを含む調達予算が計上されています。
ドイツ連邦軍が「P13」として採用予定の新型制式拳銃は、チェコCZ社製のCZ P-10シリーズで、現行のP8拳銃、ヘッケラー&コッホ社製 USPを更新するものです。
ここではライバルとなったグロック17やアレックスデルタ、更新されるP8 についても解説します。
新拳銃「P13」 はチェコ製のCZ P-10F
ドイツ軍の新拳銃P13として採用されたのはチェコの火器製造企業CZ社のCZ P10Fです。

P13(CZ P-10F)は現代的な設計を備えており、ポリマーフレームによる軽量化と人間工学的なグリップ形状、耐久性と拡張性を備え、高い射撃精度を実現しています。
2025年に採用が決定されたP13は、1994年に正式採用されたP8すなわちヘッケラー&コッホ社製USPを更新するために採用されました。
P13は7年間に及ぶ契約で、最低でも6万2千丁を調達する計画で、最大で18万6千丁を調達する可能性がある契約です。

採用経緯としては2024年11月に連邦軍装備局が入札を開始し、2025年1月締め切り。
最終候補はCZ P10F、グロック17、Arex Deltaとなっていました。
入札には価格が唯一の選定基準として100%の重み付けで記載されており、結果的にCZが勝利しました。
2025年7月に契約承認され、ホルスターなどの輸送システムも同時調達されることになりました。

「P13」 CZ P-10Fの主要スペック解説
P13として採用されたCZ P-10シリーズは3つのフレームサイズがあり、一番大きいF(フルサイズ)、小型のC(コンパクト)、更に小型で銃身長も短いS(サブコンパクト)があり、ドイツ軍がP13として採用したのフルサイズのCZ-10Fです。



使用弾薬は9×19mmの9ミリ弾、装弾数は弾倉19発+薬室1発の最大20発、安全機構としてはマニュアルセーフティーは省略されているものの、トリガーセーフティ、自動撃針ブロック、フレーム内蔵のトリガーバーセーフティーなどの複数安全機構が搭載され、不意の落下やご操作時の暴発を防止します。

両サイトに備えられたスライドストップにより両手での操作に対応、マガジンリリースボタンを左右で変更可能。グリップ後部は3種類のサイズ変更可能な部品を備えています。
照準には発光またはトリチウムのドット入り照星、照門を備え、直感的な照準が可能となっています。
フレーム下部先端にはレーザーサイトやライトを搭載可能なレールを備え、耐久性と耐熱性に優れたグラスファイバー強化ポリマーフレームを採用し、スライドとバレルには窒化処理が施され、冷間鍛造で製造された銃身による耐久性をアピールしています。

ドイツ軍が採用したモデルはフルサイズのCZ P10Fというモデルだという情報しかつかめませんでしたが、最新式の拳銃として他にも細かな様々な拡張性を備えたモデルが存在します。
光学機器に対応したCZ OR(optics ready) というモデルにはスライド上面を レール付きマウントプレートに交換することができ、拳銃用のドットサイトなどの光学照準器が搭載可能になります。

サプレッサー対応のSR(suppressor ready)モデルでは、コンペンセイターやサプレッサーを装着できるよう、延長されたバレル先端にネジ山が加工されたモデルがあります。

ドイツ軍の先代拳銃「P8」解説
ドイツ軍のこれまで正式採用されていたP8拳銃はH&K(ヘッケラー&コッホ)社製のUSPの派生型の拳銃です。

近距離での自衛用としてや、機関銃手や狙撃手の副武装として採用されています。
基本的な構造はUSPとほとんど同じですが、P8は半透明の弾倉を採用し、左側面後方にあるコントロールレバーが、通常のUSPと射撃、安全が逆になり上から射撃、安全、デコッキングの順になっています。


これは先代のワルサーP1のマニュアルセーフティーの操作に近いものとなっています。
この2点が通常のUSPとの違いですが、ほとんど見た目は変わりません。
使用弾薬は9×19ミリ弾、弾倉容量は15発で、重量は750グラム、15発フル装填した場合の重量は985グラム。弾倉とフレームがポリマー製で作られており、弾倉は半透明のものを採用しているのが特徴的です。
マガジンリリースは左右どちらでも操作可能で、幅広のトリガーガードにより、マガジンリリースの誤作動を防止します。
P8は工具なしで主要部品に分解でき、清掃やメンテナンスが可能です。
P8採用から30年以上経過し、更新の必要性が高まり、今回のP13の採用となりました。
P8とP13を比較して進化した点をあげると
・装弾数が15発から19発に4発増加
・光学照準器対応レールスライド
・ライト等のアクセサリーレールは独自規格のスライドからピカティニー・レール規格へ
・サイズ調整のグリップパネル
・サプレッサー対応バレル
ドイツ連邦軍が採用したのはCZ P-10Fというフルモデルだということは、公開されていますが、CZ社のホームページで公開されている市販モデルでの導入なのか、ドイツ軍向けの独自モデルなのかは不明です。
いずれにしても従来のP8よりも幅広い拡張性を備えた拳銃として、進化していると言えるでしょう。
P13選定のライバル「グロック17」と「アレックスデルタ」を解説
P13選定時に最終的にライバルとなった拳銃はCZ P-10の他に2種類ありました。
チェコのCZ社の他にスロベニアのアレックス社、オーストリアのグロック社だと報じられています。
最終的にはCZ社が採用されましたが、他のライバル社の拳銃にも注目してみましょう。
オーストリア Glock グロック17
オーストリアにあるGlock社の「グロック17」(第5世代以降モデル)がP13候補に挙げられていました。
グロック17は世界的にも広く使われるポリマーフレーム製ストライカー拳銃の代表格で、9×19mm弾仕様・17+1発装填、114 mm銃身(4.49インチ)、全長約202 mmのフルサイズ拳銃です。

重量は空マガジン装着時で約710 gと軽量で(第5世代モデル、マガジン無し本体630 g)、シンプルな構造による高い信頼性と耐久性で知られます。

手動安全装置は持たず、代わりにトリガー一体型のセーフティレバーや落下防止用の撃針ブロックなど3重の自動安全機構を備え、安全性と即応性を両立しています。

照準器は基本的に白標示の固定照門・照星ですが、夜光サイトや頑丈なスチール製サイトへの交換、光学照準器などにも対応できるモデルが存在します。
第5世代以降のグロック17は左右両用スライドストップやマガジンキャッチの付け替えによる左利き対応、フレーム前方のピカティニー互換レール標準装備など改良が加えられており
、総合的な完成度の高さからドイツ軍の新拳銃候補として最後まで残りました。

しかし最終的な調達においては、他社製品との価格競争力なども考慮した結果、グロック社案は採用を逃しています。
スロベニア Arex Delta
スロベニアのアレックス社が提案したアレックスデルタシリーズもP13 の最終候補でした。
Arexデルタは2019年に登場した比較的新しいポリマーフレーム・ストライカー式の9mm拳銃で、15+1発(標準サイズモデルの場合)の装弾数と4インチ級の銃身長を持つコンパクト~ミッドサイズの拳銃です。

作動方式はグロック同様のショートリコイル(ブラウニング式ティルトバレル)で、シングルアクションのストライカートリガーを採用しています。
Arexデルタの設計上の特徴として、やや長めかつ段階的なトリガープルによって誤射を防止する工夫(ダブルアクションのような感触のストライカートリガー)が挙げられます。
またグリップサイズ調整用の背面パネルやアンビマガジンリリース/スライドストップを備え、利き手を問わず操作できるよう配慮されています。
フレーム先端には2スロットのアクセサリーレールを持ちライト等の装着が可能で、スライドは標準で光学サイト対応(複数種のドットサイト用マウントプレート付属)となっています。
重量は装填済みでも800g未満と軽量で携行性に優れ、低い銃身軸とハイカットフレームにより連射時の反動制御も良好です。
Arexデルタは低価格ながら性能が高いコストパフォーマンスが評価され、最終候補まで残りました。
しかし最終選定では、最有力とされたCZ社製品に競り負ける形となりました。
拳銃生産国のドイツが海外製を導入する理由
最近では日本の自衛隊でも新拳銃の採用が行われ、ドイツのヘッケラー&コッホ社のSFP9が採用されました。

興味深い点は日本には拳銃を開発、生産するメーカーはありませんが、ドイツ国内にはHK社、ワルサー社など国内に拳銃を生産する企業があるにもかかわらず、海外製の拳銃を採用した点にあります。
これはドイツがEU加盟国であり、ドイツ連邦軍のような公的機関は、EUの厳格な公共調達規則に従う義務があります。
これにより、国内企業(ドイツのH&Kやワルサー)だけでなく、EU圏内の企業、チェコ共和国のCZ、他にオーストリアのグロックなども入札参加に対しても、公平な入札機会が提供されます。
国産メーカーだからといって優遇することは法的に許されません。

長年H&K製品を主力としてきたドイツ軍が他国製を採用したのは、特定の国内メーカーに依存せず、グローバル市場における最良のコストパフォーマンスを持つ製品を、公平な競争原理に基づいて選定した結果です。
現代のドイツでは軍事調達における合理的な判断であり、もはや「国産至上主義」ではないことを示しています。



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