2026年1月11日、陸上自衛隊 第一空挺団の「降下訓練始め(NYJIP26)」で、ひときわ目を引く、犬のようなロボットが登場しました。

ロボット犬、犬型ロボットなどともよばれており、専門用語と使うとUGV(無人地上車両)の一種で、機体名はVision 60といいます。
今回は「Vision 60」について解説し「何ができて」「何ができないのか」、自衛隊や海外での使用例など交えて解説します。
開発企業 Ghost Robotics
Vision60は、アメリカのGhost Robotics社が「Q-UGV(Quadrupedal UGV=四足歩行UGV)」として開発した機体です。
Ghost Robotics社はアメリカ、フィラデルフィアに拠点を置く企業で、2015年設立、ロボット技術での防衛装備品開発を行うスタートアップ企業です。
2024年に韓国の防衛企業LIG Nex1が60%の株式を約2億4,000万ドルで取得し、約4億ドル評価の企業として防衛・産業分野向けロボットの量産体制強化を進めています。
ライバル企業のQ-UGV? 「Spot」
同じサイズの四足歩行型ロボットとしては他にも、Boston Dynamics社のSpotというモデルが存在します。

Spotは初期のプロトタイプのモデルで、米海兵隊や空軍での訓練において偵察、監視用としてテスト運用が実施されましたが、
CEO Robert Playterは2022年、「市販ロボットの武器化を懸念し、遠隔・自律操作可能な汎用ロボットを武器化しない」と明言、他のロボット企業と共同署名しました。
Boston Dynamicsは武装化や攻撃用途での利用は容認せず、非武装ロボットにおける爆発物探知などによる非武装用途限定での販売する方針です。
BostonDynamicsはDARPA(国防高等研究計画局)や米陸軍、米海兵隊の資金でビッグドッグ・LS3など、四足歩行輸送ロボットの研究開発を実施していましたが、最終的にこの計画は騒音問題により、軍での採用は中止となりました。

軍の研究開発資金を得ていた企業が、軍事分野への協力は限定的となったことは興味深い点です。
Vision60 詳細スペック解説
ここからはVison60のスペックについてみていきます。

大きさは全長約95cm、幅約57cmで重量は約50kgと一人で運搬するのは容易ではありません。降下訓練での映像では、CH47のハッチから2名の隊員によって、卸下されています。
基本設計の特徴としては3自由度、4脚(計12個のモーター)を持つ四足歩行型であり、
モジュラー設計を最大の特徴の一つとしており、現場での高い保守性と拡張性を備えています。
脚部、バッテリー、メインCPU、および前方・後方のセンサーヘッドが数分以内に交換可能です。

全てのパーツがネジ留めされており、スペアがあればネジを外して端子を差し替えるだけで復旧できるため、ダウンタイムを最小限に抑えられます。
Vision60本体にはカメラとセンサーが多数組み込まれています。5つのカラーカメラが搭載されており、オペレーターへの映像伝送や周囲の状況確認に使用されます。
4つの深度センサーが搭載されており、物体までの距離を計測して障害物を回避したり、階段を認識したりするために使われます。
通常よりも精度が高いデュアルアンテナのRTK GPSも統合されており精密な位置情報を取得できます。
Vision 60の大きな特徴として、カメラやセンサーに頼らない移動も可能です。

泥、雨、雪、直射日光などでカメラやセンサーが遮られた場合でも、モーターを通じて地面からの反力や感触を感知し、視覚情報なしで移動を継続できる「ブラインドモード」を備えています。
高い自己復旧能力があり、滑ったり点灯したりしても自力で起き上がることができ、必要に応じて逆さまになった状態での運用も可能です。
IP67等級の保護性能をもち、動作対応温度は摂氏マイナス40度から55度まで、雨、雪、砂などの過酷な天候でも耐久性と信頼性をもちます。
稼働時間は約3時間、センサーやコンピューターがオンの待機状態では最大21時間の運用が可能、航続距離は一回の充電で最大約10kmの移動が可能です。
どんな事ができるのか?
ではこのVision60にはどのようなことができて、どんな使用方法が想定されているのか?
まずは偵察、監視、警備任務についてです。
今回の陸自の空挺降下訓練では、偵察での使用を想定した展示が行われました。
前線での偵察というと敵がいるところにこんな足の遅いロボットを投入するなんて、的になるだけだろうと思う方もいるかもしれませんが、
偵察任務では、障害とよばれる、鉄条網や地雷、IEDなど罠が仕掛けられていないか?
車が通れるのか、人なら通れるのかといった道路状況や地形の確認、気象状況の確認、
通信環境の確認など、戦闘以外での偵察項目は多岐におよびます。

また市街地戦闘では敵がいそうな建物へ、侵入前にロボットを投入し、カメラで内部を確認するといった使用が想定されます。
敵の待ち伏せやトラップへの脅威に人的リスクを減少させることができます。
拡張機能パッケージ
Vison 60には各種機器の搭載が可能であり、本体上部のスペースやピカティニーレールに装着することが可能です。
Ghost Roboticsが提案する任務遂行パッケージにはさらに偵察や監視能力を高める構成が提案されています。

「セキュリティーペイロード」とよばれるパッケージには昼夜を問わず自律的な警備・監視任務を遂行するために設計された、高度なセンサーと計算ユニットを統合した構成になっています。
搭載されるメインハウジングの中には4K解像度、極めて暗い月明かり程度の明かりでも、視覚情報を取得できる、Sony製IMX678センサーを備えたカメラが三つ搭載されており、視野角150度の範囲を監視可能です。
またFLIR Boson +赤外線カメラを搭載しており、トンネルや地下など、完全な暗闇や霧の中でも熱源を検知できます。
さらにLiDARセンサーを搭載しており、レーザー光を周囲にビームのように飛ばし、光が壁や物に跳ね返るまでの時間を測って、距離を正確に計算します。
この技術によってGPSの情報が得られない場合でも、周囲の地図を自動で作り、自律的に行動することが可能になっています。この技術はSLAMと呼ばれています。
こういう場面が現実的?(個人的意見)
以上の点を踏まえ、このVison60の最大の強みは車両などに比べるとコンパクトな大きさ、四足歩行による走破性の高さ、各種センサーによる監視能力の高さにあると思います。

この三つの強みを発揮できる状況が、車が通れないような狭い場所、森林、山岳地帯などの不整地、夜間や悪天候下であると思います。
現実的にはこういった環境での監視や警備任務に向いているのではないかと思います。
例えば展開する部隊の集結地において、夜間の警備や動哨任務につかせて、人員は準備や整備、休息時間にあてるといった使い方や、
基地や駐屯地警備において、カメラやセンサーの死角を補い、動哨任務につかせて警備レベルを上げる、警備に必要な人員削減といった使い方になるのではないかと思います。

現時点では最前線での偵察というより、後方地域や平時での省人化に対するメリットのほうが大きいのではないかと思います。
軍事的用途以外にも?
ほかにもVison60の搭載パッケージには化学剤検知器を搭載した「CBRNハブ」や、
ロボットアームを搭載したパッケージなどを展開しています。
軍事においてはEODと呼ばれる爆発物処理や、化学物質の検知、除染などへの対応が想定されています。

地下鉄サリン事件のような、化学テロ事案においてもロボット技術の活躍が期待されそうです。
こういった事例では軍事関係の部門だけでなく、災害対処や治安維持、民間の産業分野でも活用される未来がくるかもしれません。
弱点・デメリットは?
ではこのVison60にできないことや、弱点、デメリットがどのような点であるかを考察したいと思います。
まずは重量に関してです。本体重量は約50kgと一人で持ち運ぶには難しい重さになっています。
さらに前線での展開や回収を考えると、重装備の隊員が扱うには容易ではなく、車両やヘリなどによる運搬が前提となるか、拠点での運用がメインとなるかと思います。
またペイロード、積載能力は約10kgと荷物の運搬には適しているとは言えません。あくまでVison60の拡張性のためのペイロード性能です。
バッテリーと充電環境の制約もあります。連続歩行時間は約3時間、待機時間は最大21時間ありますが、長時間の任務にはバッテリー交換やワイヤレス充電ドックへの帰還が必須となります。
ロボット自体は摂氏-40℃から55℃の過酷な環境で動作可能ですが、充電に関しては0℃以下や40℃以上では行えない(または効率が下がる)という制約があります。

極寒地や酷暑地では、動作はできても現場での再充電が困難な場合があります。
現代のカウンターUAV、対無人航空機戦術ではドローンへのジャミングなどが一般的となりつつあり、UGVにおいても通信妨害やハッキングなど、通信手段に対しての高い防護策や運用手段の工夫が必要になってきます。

となると各部隊で独立的に運用するにはロボット技術や通信の理解、整備技術、操作方法など、隊員ひとりが運用できるようになるまでには、一定の訓練や、時間が必要になるのではないかと思います。

陸上自衛隊や航空自衛隊においては運用研究の段階であり、防衛装備庁においてもUGVの研究や無人機に関する研究が行われています。
今の段階は、今後このような無人機やロボットの部隊配備にむけての準備期間なのではないかと思います。
各国の空挺部隊が参加した今年の降下訓練始めにおいて、Vision60が登場したのも、無人機技術に対する防衛省・陸自の姿勢をアピールする狙いがあったのではないかと個人的には思います。


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