はじめに
皆さんは、陸上自衛隊が毎年実施している、国内最大規模の実弾射撃演習
「富士総合火力演習(通称:総火演)」をご存じでしょうか?
この演習では、小銃や迫撃砲、戦車、ヘリコプター、さらにはミサイルまで、
陸上自衛隊が保有する幅広い火器が実際に使用され、まさに「火力の総合展示」とも言える迫力のある演習が展開されます。かつては一般公開も行われ、多くの来場者で賑わう人気イベントでした。
しかし現在では一般公開は中止となり、一般の人がその様子を見られるのは「ライブ配信」のみ
となっています。
実は私自身、陸上自衛官として勤務していた当時は、総火演に参加した経験がなく、正直あまり関心を持っていませんでした。
ところが近年、ライブ配信でその様子を見られるようになったと知り、たまたま時間が合ったこともあって、今回初めてフルで視聴してみることにしました。
この記事では、元陸上自衛官の目線から「総火演の注目ポイント」や「気になった装備・演出」をピックアップしながら、演習映像を振り返っていきます。
富士総合火力演習とは?
ここでは、富士総合火力演習(総火演)がどういった演習なのか、簡単にご紹介します。
富士総合火力演習は、1961年に陸上自衛隊の富士学校で始まった演習で、もともとは普通科・野戦特科・機甲科の隊員を対象に、火力戦闘に関する教育を行う目的で実施されました。

その後、1966年からは一般公開も開始され、1972年には演習の名称が「総合展示演習」から現在の「総合火力演習」へと変更されました。
現在の総火演は、以下のような目的を持って実施されています。
- 自衛官、防衛大学校生、予備自衛官などへの教育訓練
- 若年層や再就職援護協力企業などを招待し、自衛隊への理解を深めてもらう機会
- 演習参加部隊にとっては、実弾射撃の貴重な訓練機会
つまり、総火演は「教育」と「広報」の両面を兼ね備えた、大規模なイベントなのです。
ただし、新型コロナウイルスの影響により、現在は一般公開が中止されており、映像によるライブ配信やアーカイブ配信での視聴が主な手段となっています。
私自身が自衛官として勤務していた頃、周囲には総火演に射撃部隊として参加した先輩や、会場運営の支援要員として携わった方もいましたが、当時の私は参加経験もなく、ライブ配信もなかったことから、正直それほど関心があるイベントではありませんでした。
しかし退職後、ライブ配信で初めて総火演を視聴してみて、改めてそのスケールと内容の濃さに驚かされました。
このあとは、そんな総火演の中で元自衛官目線で注目したポイントや装備品について、詳しく解説していきたいと思います。
注目シーン振り返り
警務隊の装備が気になる

白いヘルメットにMPの腕章をつけた警務隊の隊員たち。遠くて少し見えづらいのですが、黒いアーマーのようなベストやレッグホルスターのような装備を確認できます。
さらに注目したのが、彼ら全員が持っていたビジネスバッグのような黒いバッグ。最初は「書類なんて持ち歩くのか?」と思いましたが、形状や所持者が揃っている点から見ても、おそらく防弾バッグのようなものでしょう。要人警護任務を想定した装備ではないかと感じました。陸自の警務隊も、警察のSPと連携するような活動があるのでしょうか?
着弾地域と距離感の重要性

映像内で「着弾地域」についての説明がありますが、これは単なる視覚演出ではなく、実際の教育でも重視されるポイントです。
複雑な地形の中で距離感を正確につかむのは意外と難しく、「遠くの目標が近くに見える」といった錯覚が起きがちです。地図や測定器具で補正できても、最終的には「目で見た感覚」も重要になります。
こういった距離の把握は、目標の発見・報告や、正確な射撃に直結します。将来的には、3DカメラやVRなどを活用して、よりリアルな体験として再現できるようになるかもしれません。
地名による命令のやり取り

演習中に「〇〇道」「〇〇の台」といった名称が使われていますが、
これは実戦や訓練において報告や命令を迅速に行うための共通言語として使われています。
例えば「1小隊は西道を前進、2小隊は中央道を前進せよ」といったように、位置を簡潔に指示するために事前に地名を覚えておくことも重要です。
96式多目的誘導弾システム(MPMS)

この装備、初めて見ました……。正直、チュウタ(中距離多目的誘導弾)とはまた違うんですよね。こういった自分が担当していなかった装備に関しては詳しくないというのも、自衛隊のリアルです。
中距離多目的誘導弾(中多)

こちらは知っています。対戦車小隊の知人が「これに切り替わる予定」と話していましたが、いつになるかは分からないとのことでした。
ちなみに「中多(チュウタ)」という略称、なんだか可愛いネーミングですよね。なお、車両が迷彩塗装されている理由、もし詳しい方がいたらぜひ教えていただきたいです。
01ATM(マルヒトATM)

マルヒトの射撃を見るのは初めてでした。かなりマニアックな視点かもしれませんが、「誘導弾の的」ってどんな仕組みになっているのか、とても気になります。
FH70の大迫力と創意工夫

このFHの数は圧巻ですね。 個人的に気になった点は偽装網の支柱に竹を使っている点、
やっぱりどこの部隊でもやっている創意工夫ですね。 正式な支柱もあるんですが、長さ調節できるものあったりするんですがその分重量もあります。竹は軽くて丈夫で気軽に使いやすいです。
砲の前に置いてある黄色い工事現場で使うような、単管パイプバリケードから2本の棒が砲身を挟むように設置してあります。 これはおそらく弾着区域から照準が外れないようにする安全管理上の工夫です。 長射程の火砲は射程が長くなるほど、照準がずれた際の着弾位置は大きくずれるので、
狭い演習場しかない日本ではこういった 安全対策がいくつも取られています
新装備 12式地帯艦誘導弾能力向上型

注目されている国産のステルス巡航ミサイルですね。
新装備 島嶼防衛用高速滑空弾

こちらは自衛隊のHGV、いわゆる極超音速弾道ミサイル。正式名称は「島嶼防衛用高速滑空弾」という、いかにも自衛隊らしいネーミング。高速で飛翔して迎撃を回避する特性があります。イスラエルがイランに攻撃された際も、迎撃システムでは飛翔速度の高い数発が迎撃できず着弾したとされています。
新装備 共通戦術装輪車(機動迫撃砲型)
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気になる車両が登場しました。機動迫撃砲型、もう研究開発は完了しているんですね。
発射シーンを見ると、車載型とはいえ反動がほとんど感じられないように見えました。
新装備 共通戦術装輪車(偵察戦闘型)

偵察警戒型も搭載している砲よりもレーダーとセンサーやカメラ類が目立ちますね。
新装備 車両搭載型高出力レーザ装置

自衛隊が開発している対ドローンレーザー装置ですね。 以前作った動画でもドローンについて少し調べた動画があるので見てもらえると嬉しいです。
IED !? 20榴砲弾を活用した障害

すぐ理解できなかったのが、「20りゅう砲弾を活用した障害」という展示です。「これは何のことだろう?」と思っていたのですが、映像を見て「なるほど、そういうことか」と理解できました。地雷のような運用を目的とした障害で、IED(即席爆発装置)に近い印象です。
用途廃止になった砲弾を利用する柔軟な発想で、非常に良いアイデアだと感じました。
航空自衛隊F-2戦闘機の爆撃 JDAM投下

F-2戦闘機によるJDAM(誘導爆弾)の投下シーンは模擬かと思いきや、本当に訓練弾を投下していたようです。演習場に実際に投下できるとは知りませんでした。爆発は演出かもしれませんが、異なる投下タイミングのJDAMを着弾タイミングを揃えて投下したとすれば、かなり高度な技だと感じました。
ウクライナを意識した塹壕内戦闘

最後に印象的だったのは塹壕内戦闘の展示です。明らかにウクライナの戦闘を意識した内容です。
ここで使用していたのは空砲ですね。
閃光発音筒の描写や突入装備の考察

閃光発音筒、いわゆるフラッシュバンも登場していました。
安全ピンはカラビナと紐で装具に固定し、落下防止する処置が施されていました。
アニメなどでよく見かける「歯で安全ピンを引き抜く」描写がありますが、実際は割ピンの部分を指でまっすぐにしてからでないと抜けないため、あの演出は現実的ではないです。
突入隊員が背負っていたアンテナ付きの装備も気になりました。おそらくFPVカメラの映像送信装置だと思いますが、対ドローン用のジャミング装置にも見えてきます。
まとめ
ここまで、私個人の視点から印象に残ったシーンや注目ポイントを振り返ってきましたが、いかがだったでしょうか?
今回は「富士総合火力演習」をライブ配信で初めてじっくり視聴しました。
元自衛官の立場としても、正直とても勉強になる内容でした。
というのも、自分が所属していた職種や担当していた火器以外の運用を見る機会は、実際にはほとんどありません。特に総火演のような大規模な実弾演習では、自衛隊の持つ多様な装備やその運用方法を一度に見ることができるため、現役の隊員にとっても新たな発見がある内容だと感じました。
また、新装備の導入が進んでいる今だからこそ、演習を通じて初めて目にする装備品も多く、技術や運用の進化を肌で感じられたのも印象的でした。
これから入隊を考えている方にとっても、各職種の特徴や運用のイメージを掴むうえで非常に参考になる内容だと思います。
ちなみに、ライブ配信の画質も意外と良く、演習の迫力や雰囲気がしっかりと伝わってきました。
Youtube動画も作成しています。
よければチャンネル登録・コメントなどよろしくお願いします。
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