トランプ大統領が発表した『アメリカ版アイアンドーム』とは? その目的と計画について解説します。
トランプがアメリカ大統領に就任後、いくつかの大統領令にサインをしたという報道を見た方がいるかと思います。その中にアメリカ版のアイアンドーム構想という大統領令にサインしたというニュースを見て、なぜ今になって局地的な防御手段であるアイアンドームを採用したのか?アメリカ版とは?と疑問に思ったので調べてみました。
アメリカ版アイアンドームとは
近年、弾道ミサイル、極超音速ミサイル、巡航ミサイルなどの脅威が増大 し、防衛技術の進化が求められています。トランプ大統領が提唱する「アメリカ版アイアンドーム」は、米本土を守るための新たな防衛システムの構築を目指すものです。
この計画が実現すれば、ミサイル攻撃への対応力を向上させ、国民と重要インフラを守るための防衛体制を強化できるとしています。また、同盟国との防衛協力を強化し、グローバルな安全保障の安定にも貢献する可能性があります。
まず、今回トランプ大統領が発令したのは「大統領令」というものです。
これはアメリカ大統領に与えられた権限によって発行される命令で、議会の承認を経ずに、すぐに政策を実行に移せる仕組みです。
特に国家の安全保障や外交、防衛に関する内容は、この「大統領令」によって迅速に指示が出されることがよくあります。
日本でいうと「閣議決定」と似た部分もありますが、より大統領個人の裁量で動かせるのが特徴です。
今回の大統領令の正式名称は「The Iron Dome for America(アメリカのためのアイアンドーム)」と題されており、2025年1月27日にホワイトハウスから発表されました。

The Iron Dome for America (The White House)
この大統領令の目的は、アメリカ本土に対する弾道ミサイルや極超音速ミサイル、さらには巡航ミサイルやその他の先進的な空中攻撃の脅威から国を守るため、次世代型ミサイル防衛システムを構築することです。
具体的な内容としては、まず、国防長官に対して60日以内に「次世代ミサイル防衛シールド」の設計と実施計画をまとめ、大統領に提出するよう命じています。
この計画には以下の要素が含まれています。
ひとつ目は、アメリカ本土を「同等レベルの大国(ロシアや中国)」や「ならず者国家(イランや北朝鮮)」が保有する、弾道ミサイルや極超音速ミサイルなどの攻撃から防御する仕組みの構築です。
ふたつ目は、宇宙に配備される「極超音速・弾道ミサイル追跡センサー」の展開を加速させること。これにより、敵のミサイル発射をいち早く探知し、迎撃までの時間を短縮する狙いがあります。
さらに、「宇宙配備型迎撃ミサイル」を開発・配備し、敵のミサイルを発射直後のブースト段階で撃ち落とすことを目指しています。
また、地上配備の迎撃システムも強化し、ミサイルが着弾する直前の段階でも防御ができる体制を整えます。
その他にも、ミサイル攻撃を事前に無力化する能力の開発や、安全なサプライチェーン(部品供給網)の確保、さらにはレーザー兵器などの非運動エネルギーによる防衛手段も検討されています。
さらに、アメリカはこのシステムを同盟国とも共有し、前線に展開する米軍や同盟国の防衛力向上にもつなげる方針を掲げています。
このように、「アメリカ版アイアンドーム」は、イスラエルのアイアンドームの短距離迎撃システムとは異なり、アメリカ本土を長距離ミサイルの脅威から守ることを目的とした、より広範囲かつ高度なミサイル防衛構想になっています。
イスラエルのアイアンドーム
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次に、アメリカ版アイアンドームと、イスラエルが実戦配備しているアイアンドームとの違いについて解説します。
まず前提として、トランプ大統領がこの計画を「アイアンドーム」と名付けたことには、イスラエルのアイアンドームへの高い評価があると考えられます。
イスラエルのアイアンドームは、すでに実戦で高い成果を上げており、数多くのロケット弾やミサイルから市民やインフラを守ってきた実績があります。
そのため、アメリカ国民にもわかりやすい象徴的な防衛システムとして、この名称を選んだとみられています。
では、実際のイスラエルのアイアンドームとはどのようなシステムなのでしょうか。
イスラエルのアイアンドームは、RAFAEL社とイスラエル国防省が共同で開発した短距離ミサイル迎撃システムです。2011年の運用開始以来、ガザ地区から発射されるロケット弾や迫撃砲弾などを迎撃し、都市部や重要インフラへの被害を大幅に抑えてきました。
現在までに5000発以上の迎撃実績があり、その成功率は90%以上とされています。
アイアンドームは、「C-RAM(Counter Rocket, Artillery, and Mortar)」と呼ばれる、ロケット弾や迫撃砲弾、さらに巡航ミサイルへの対処が可能なシステムです。
その特徴は、極めて短時間で脅威を識別し、迎撃が必要な目標だけに対してミサイルを発射する選択的迎撃機能にあります。
この機能により、コストのかかる迎撃ミサイルを無駄に消費することなく、防衛エリアを効率よく守ることができます。
アイアンドームは、都市部の固定施設や部隊の前線拠点、移動する車両にも設置可能で、モバイル性にも優れています。また、全天候型で、雨、砂嵐、霧などの悪天候でも稼働可能なため、過酷な環境下でも高い信頼性を誇ります。
さらに派生型として、艦艇を守るための「C-DOME」や、車両1台にシステムを統合した「I-DOME」も開発されています。
I-DOMEは、トラック型の移動式システムで、10基の迎撃ミサイルとレーダー、管制装置を搭載し、前線での即応性を強化しています。
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一方で、トランプ大統領が構想する「アメリカ版アイアンドーム」は、より大規模かつ戦略的な目的を持っています。
イスラエルのアイアンドームが短距離のロケットや砲弾を迎撃する局地防空システムであるのに対し、アメリカ版は大陸間弾道ミサイル(ICBM)や極超音速ミサイルといった長距離の脅威に対応するため、宇宙空間を含めた多層防衛システムの構築を目指しています。
つまり、両者は防衛範囲と対応する脅威の規模が大きく異なります。
イスラエルのアイアンドームは、主にガザやレバノンからのロケット攻撃といった近距離・短時間の攻撃への防御に特化していますが、アメリカ版はそれよりも広範囲かつ戦略レベルのミサイル攻撃への対応を想定しています。
名称は同じ「アイアンドーム」ですが、その実態はまったく異なるシステムと言えるでしょう。
しかし、イスラエルのアイアンドームの成功例があったからこそ、トランプ大統領はアメリカ国民に「防衛の象徴」としてこの名称を採用したと考えられます。
アメリカのミサイル防衛網の現状
現在、アメリカは多層的なミサイル防衛網を構築し、様々な段階でミサイルの脅威に対応する体制を整えています。ミサイル防衛には「ブースト・フェイズ(上昇段階)」「ミッドコース・フェイズ(中間段階)」「ターミナル・フェイズ(終末段階)」という3つの段階があり、それぞれ異なる防衛システムが運用されています。

【ブースト・フェイズ(上昇段階)】
ブースト・フェイズとは、ミサイルが発射されてから大気圏外に出るまでの、燃料を燃焼させて加速している段階です。この段階ではミサイルの熱源が非常に強く、比較的発見しやすい反面、迎撃する時間は数分程度と非常に短くなります。
現在、アメリカのミサイル防衛システムでは、ブースト・フェイズ迎撃はまだ実用化されていません。しかし、レーザー兵器や無人機による迎撃、さらに将来的には宇宙配備の迎撃兵器の配備が検討されています。この領域では、トランプ政権が提唱する「宇宙配備型迎撃ミサイル」や、「高エネルギーレーザー兵器」の開発が進められており、ブースト段階での迎撃能力の実現に向けた研究が行われています。
【ミッドコース・フェイズ(中間段階)】
ミッドコース・フェイズは、ミサイルが宇宙空間を飛行し目標へ向かう途中の段階です。このフェイズは迎撃のための時間が比較的長く、迎撃の成功率も高いとされています。しかし、ミサイルがデコイ(おとり)を放出する場合もあり、識別と追跡が課題となっています。
この段階で主力となっているのが、「地上配備型迎撃ミサイル(GBI)」です。
GBIは、アメリカ本土のアラスカ州フォートグリーリーとカリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地に配備され、北朝鮮やイランなどの長距離弾道ミサイルを迎撃するためのシステムです。このミサイルは「キネティックヒット方式」を採用しており、弾頭に直接体当たりして破壊する方法が用いられています。

また、「Aegis BMD(イージス弾道ミサイル防衛)」システムもこの段階で重要な役割を果たします。イージス艦に搭載されたSM-3ミサイルは、中間段階で弾道ミサイルを迎撃する能力を持ち、日本や韓国などの同盟国にも配備されています。
さらに、宇宙からの追跡能力を高めるために、「SBIRS(Space-Based Infrared System)」などの赤外線探知衛星がミサイル発射を早期に探知し、ミッドコースフェイズでの迎撃を支援しています。
【ターミナル・フェイズ(終末段階)】
ターミナル・フェイズとは、ミサイルが大気圏に再突入し、目標に向かって落下してくる最終段階です。この段階では、迎撃までの時間が非常に限られており、即応性と高い命中精度が求められます。
ここでの主力が「THAAD(高高度迎撃ミサイル)」と「パトリオットPAC-3」です。
THAADは、大気圏外および再突入時の目標を高高度で迎撃するために設計されており、比較的広範囲をカバーします。一方、パトリオットPAC-3は、都市や軍事基地などの防衛に特化しており、近距離での迎撃に優れています。

THAADとパトリオットPAC-3は、すでにアメリカ本土および在外米軍基地に配備されており、韓国や日本、サウジアラビアなどにも提供されています。
【アメリカのミサイル防衛の課題と今後】
現在のアメリカのミサイル防衛網は、多層的かつ広範囲にわたって機能していますが、完全無欠ではありません。特に、極超音速兵器やデコイ技術、電子戦の発達により、既存のシステムだけでは対応が困難になりつつあります。
そのため、トランプ政権は「次世代ミサイル防衛シールド」の構築を推進し、宇宙空間での監視・迎撃能力の向上や、非運動エネルギー兵器(レーザーなど)の導入を急いでいます。
今後、アメリカのミサイル防衛は、従来の迎撃手法に加え、宇宙とサイバーの領域を含めた「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」の発展が求められていると言えるでしょう。
アメリカ版アイアンドームの発表を受けて、国際社会はさまざまな反応を示しています。特にロシアは、この計画を強く警戒し、批判を強めています。
国際的な反応
ロイター通信によると、ロシア外務省のザハロワ報道官は、「アメリカが世界の核バランスを崩そうとしている」と非難しています。さらに、アメリカの計画は宇宙空間に迎撃システムを配備することを想定しており、「宇宙を新たな戦場にしようとしている」と警戒感を示しました。これにより、宇宙空間での軍拡競争が激化し、国際的な緊張が高まることが懸念されています。
中国については、現時点で公式なコメントは確認されていませんが、過去のミサイル防衛計画に対する反応や姿勢を踏まえると、アメリカの今回の計画に対しても強い警戒心を抱いていると予想されます。特に、アメリカのミサイル防衛網が強化されることで、中国の核抑止力に対する影響が懸念され、軍拡競争のリスクが高まるとの見方があります。
日本はこれまで、アメリカと連携してミサイル防衛システムを強化してきました。例えば、イージス艦による迎撃や、SM-3ブロックIIAミサイルの共同開発などが進められています。さらに、日本はアメリカの早期警戒システムから情報を受け取ることで、ミサイル防衛の即応性を高めています。
今回のアメリカ版アイアンドーム構想により、日本は宇宙に配備される新しい監視システムや迎撃網と連携することが求められるかもしれません。これにより、より早い段階で敵のミサイル発射を察知し、日本自身の防衛体制を強化することが可能になります。
ただし、その一方で、日本がこうした防衛網の一翼を担うことは、中国やロシアとの関係に影響を与える可能性もあります。日本は今後、アメリカとの防衛協力を進めると同時に、周辺諸国との外交的なバランスを慎重に取る必要があると思います。
まとめ
今回は、トランプ大統領が発表した「アメリカ版アイアンドーム」について、その概要や目的、計画の内容また、イスラエルのアイアンドームとの違いや、アメリカの現在のミサイル防衛網の状況などを解説してきました。
この計画が実現すれば、アメリカ本土や同盟国の防衛力が強化される一方で、国際的な緊張や装備品の開発競争が加速する可能性もあります。今後もアメリカの防衛政策や国際関係がどのように変化していくのか、注目していきたいと思います。
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