自衛官の服務の宣誓とは? 他の公務員との違いを比較して解説

自衛隊

公務員として採用された際には、「服務の宣誓」を行うことが一般的です。これは、公務員が法令を遵守し、誠実に職務を果たすことを誓う、いわば“公務員としての覚悟”を表す儀式的な行為です。

もちろん、自衛隊でもこの服務の宣誓は行われます。ただし、その内容には他の公務員とは異なる、「命をかける」ような強い決意が込められているのが特徴です。

本記事では、自衛官の服務の宣誓文とその意味を紹介するとともに、国家公務員や地方公務員、警察官、消防士など他の職種との違いを比較していきます。また、「国会議員には服務の宣誓があるのか?」というふとした疑問についても調べてみたので解説していきます。

「服務の宣誓」というテーマを通じて、公務員制度の背景や、自衛官という職業の特異性について一緒に考えていきましょう。

自衛官の服務の宣誓とは

自衛官として採用されたとき、まず最初に行うのが「服務の宣誓」です。
これは法律に基づく正式な手続きであり、自衛隊法施行規則 第39条に定められています。
この条文では、「自衛官となった者は、宣誓文を記載した宣誓書に署名押印して、服務の宣誓を行わなければならない」とされています。

出典:福島駐屯地X(https://x.com/jgsdf_fukushima/status/1509795199974666244)

つまり、自衛官として任務に就く前に、「国家と国民に対して忠誠を誓う」という、非常に重みのある誓いを立てるということです。
以下がその宣誓文の内容です。

自衛隊法施行規則 第三十九条 一般の服務の宣誓
宣誓 
私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、

日本国憲法及び法令を遵守し、
一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、

心身を鍛え、技能を磨き、
政治的活動に関与せず、強い責任感をもって専心職務の遂行に当たり、
事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、
もって国民の負託にこたえることを誓います。

この一文には、自衛官としての行動規範や価値観がすべて詰まっていると言っても過言ではありません。
特に注目すべきなのは、「危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努める」という一節です。

これは、他の公務員の誓いではまず見られない、自衛官だけが持つ“命をかけて国を守る覚悟”を象徴する言葉だと言えると思います。

この服務の宣誓は、通常入隊後に所属する「教育隊」に入った段階で行われます。
まず宣誓書に署名・押印し、その後、入隊式などの公式行事でも改めて宣誓します。

さらに、新隊員教育期間の6か月間は、朝礼時に代表者が前に出て、全員でこの宣誓文を読み上げる、というのが日課となっていました。

先ほど紹介した宣誓文は、すべての自衛官が同じ文面を使っているわけではありません。
立場や採用の区分によって、宣誓文の内容には違いがあります。

その違いを見ていきましょう。
まず紹介するのは「自衛官候補生」の服務の宣誓です。

自衛官候補生として入隊した場合、最初の3ヶ月間はまだ正式な自衛官ではない「自衛官候補生」という立場になります。
この間に行う宣誓は以下のような内容です。

自衛隊法施行規則 第三十九条の二 自衛官候補生の服務の宣誓
宣誓 
私は、自衛官候補生たるの名誉と責任を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、
常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、知識をかん養し、政治的活動に関与せず、専心自衛官として必要な知識及び技能の修得に励むことを誓います。

このように、自衛官候補生の宣誓は、「危険を顧みず」などの表現はなく、
あくまで「学びと成長に専念する姿勢」を示した内容になっています。

私自身は一般曹候補生として入隊したので、最初から一般の服務の宣誓をしていました。
ですが、後期教育で自衛官候補生の同期と一緒になった際に、自衛官候補生で入隊した同期がこの宣誓文を使っていたことを知り、ちょっと驚いた記憶があります。
処遇面での改善として自衛官候補生という採用区分は2025年で廃止予定となっており、26年度からは自衛官として採用する「任期制士」という新制度となる予定であり、この宣誓文も26年からは使用されなくなるかもしれません。

次に紹介するのは、「予備自衛官」や「即応予備自衛官」の服務の宣誓です。

これらは、普段民間で働きながら、年に定められた日数の訓練に参加し、
有事の際に招集されて任務にあたる、いわば非常勤の自衛官です。

それぞれの宣誓文は以下のとおりです。

自衛隊法施行規則 第四十一条 予備自衛官の服務の宣誓
宣誓
私は、予備自衛官たるの責務を自覚し、常に徳操を養い、心身を鍛え、
訓練招集に応じては専心訓練に励み、
防衛招集、国民保護等招集及び災害招集に応じては
自衛官として責務の完遂に努めることを誓います。

自衛隊法施行規則 第四十一条

自衛隊法施行規則 第四十一条の二 即応予備自衛官の宣誓文
宣誓
私は、即応予備自衛官たるの責務を自覚し、常に徳操を養い、心身をきたえ、
訓練招集に応じては専心訓練に励み、
防衛招集、国民保護等招集、治安招集及び災害等招集に応じては
自衛官として責務の完遂に努めることを誓います。

この2つの違いは、「治安招集」という表現の有無くらいで、宣誓文自体は非常に似ています。
ただし、実際の役割としては、予備自衛官は年間5日間の訓練で後方支援任務が中心、
即応予備自衛官は年間30日の訓練を受け、有事には現職の自衛官と同様に第一線に配置されます。

次に、学生や生徒として自衛隊に入る場合の宣誓文です。

たとえば「防衛大学校」や「防衛医科大学校」、「陸上自衛隊高等工科学校」に入校する際には、以下のような宣誓を行います。

自衛隊法施行規則 第四十条 学生及び生徒の服務の宣誓
宣誓
私は、防衛大学校学生(防衛医科大学校学生又は陸上自衛隊高等工科学校生徒)
たるの名誉と責任を自覚し、

日本国憲法、法令及び校則を遵守し、常に徳操を養い、
人格を尊重し、心身を鍛え、知識をかん養し、政治的活動に関与せず、
全力を尽して学業に励むことを誓います。

ここでは「校則」や「学業に励む」といった表現が入っており、学生としての本分に重きを置いた内容となっています。

さらに、自衛隊法施行規則 第42条において「幹部自衛官」に昇任した者は次の宣誓文に署名して宣誓を行うことになります。


自衛隊法施行規則 第四十二条 幹部自衛官の服務の宣誓
宣誓
私は、幹部自衛官に任命されたことを光栄とし、重責を自覚し、
幹部自衛官たるの徳操のかん養と技能の修練に努め、

率先垂範職務の遂行にあたり、
もって部隊団結の核心となることを誓います

幹部としての自覚、模範となる姿勢、部隊を率いる責任といった内容が込められた、よりリーダーシップを意識した宣誓文になっています。

このように、自衛隊の「服務の宣誓」と一口に言っても、自衛官の立場や役割によって文面が多少異なります。ですが、共通しているのは、「国のために誠実に任務を果たす」という決意です。

他の公務員の服務の宣誓との違い

自衛官以外の公務員、つまり一般職の国家公務員、地方公務員、警察官、消防士などにおける「服務の宣誓」について見ていきましょう。

まずは、一般職の国家公務員についてです。
国家公務員法第97条では、「職員は、政令の定めるところにより、服務の宣誓をしなければならない」と定められています。
実際の宣誓文の例として、次のようなものがあります。

私は、国民全体の奉仕者として
公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、
日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、
不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく
誓います

この宣誓文には、法令遵守や職務遂行への誠実さ、中立性の保持といった価値観が盛り込まれています。
当然、「危険を顧みず」や「身をもって」など、自衛官の宣誓に見られるような自己犠牲の覚悟を示す表現は含まれていません。

次に、地方公務員です。
地方公務員法第31条により、「職員は、条例の定めるところにより、服務の宣誓をしなければならない」とされています。

例として、三重県の宣誓文を見てみましょう。

私は、ここに主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、
かつ、擁護することを固く誓います。
私は、地方自治の本旨を体するとともに、

公務を民主的かつ能率的に運営すべき責務を深く自覚し、
全体の奉仕者として一部に偏することなく、

誠実かつ公正に職務を執行することを固く誓います。

なお、消防職員の宣誓も、各自治体が条例や規程により定めており、基本的には地方公務員の宣誓と類似しています。

例として、大阪府豊中市の消防職員宣誓文を紹介します。


私はここに、主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、
かつ、これを擁護することを固く誓います。
私は、消防の目的及び任務を深く自覚し、
消防の職務に優先して従うことを要求する団体又は組織に加入せず、
全体の奉仕者として誠実かつ公正に消防の職務を執行することを固く誓います。

消防職も現場での危険と隣り合わせですが、公務の遂行への責任感と忠実性が主眼です。

いくつかの自治体の例を調べましたが、地方公務員の場合は「私は」から始まる2つの文章から構成される宣誓文になっていて、1つ目の文章はほぼ同じ内容で、主権が国民にあること、憲法を尊重する内容で、2つ目の文章では宣誓する者の立場や役職によって少し変更がある内容が多かったです。
地方公務員の宣誓文も条例や規定によって多少違いがあるものの、誠実さや公平性、憲法尊重といった観点が中心です。

続いて、警察官の服務の宣誓です。
警察法第3条には、「警察職員は、日本国憲法及び法律を擁護し、不偏不党かつ公平中正にその職務を遂行する旨の服務の宣誓を行う」と記されています。
さらに国家公安委員会規則に基づき、以下のような具体的な宣誓文が存在します。

私は、日本国憲法及び法律を忠実に擁護し、命令を遵守し、
警察職務に優先してその規律に従うべきことを要求する

団体又は組織に加入せず、
何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず、

良心のみに従い、不偏不党かつ公平中正に
警察職務の遂行に当たることを固く誓います。

非常に厳格な内容で、中立性の堅持や倫理の遵守が強く求められていることが分かります。

これらの公務員の宣誓文を比較すると、自衛官の服務の宣誓には、明確に異なる特徴があります。
それは、

「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め…」

という一節に象徴されるような、命を懸ける覚悟が明文化されている点です。

もちろん、警察官や消防士、海上保安官など命の危険を伴う職務に就いています。
しかし、その精神がここまで明確に言語化されている宣誓文は、自衛官以外にはほとんど見られません。

服務の宣誓という一見形式的な手続きの中にこそ、各職種が社会において担う役割の違い、そして求められる覚悟や倫理観の違いが表れているといえます。

国会議員には服務の宣誓はあるのか?

ここまで、自衛官をはじめ、警察官、消防士、国家公務員、地方公務員など、さまざまな職種の服務の宣誓について紹介してきました。では、国の立法を担う国会議員には、同じような宣誓制度が存在するのでしょうか。

結論から言えば、国会議員には、自衛官や他の公務員のような「服務の宣誓」は定められていません。

国会議員については、国会法や憲法、議院規則などの法令の中に、「服務の宣誓」に関する規定は存在していません。議員は選挙によって国民から直接選ばれる存在であり、選挙の結果そのものが正当性の証とされるため、任命や採用とは異なる制度的立場にあることが背景にあります。

とはいえ、国会議員が自由に振る舞ってよいというわけではありません。国会法や両院の規則には、品位保持義務や守秘義務、議員の行動に関する懲罰規定など、一定の倫理的・法的な枠組みが設けられています。服務の宣誓がなくても、職責の重さは当然ながら伴っています。

まとめ

今回は、自衛官の服務の宣誓について、その内容と背景を紹介し、他の公務員と比較することでその特異性を考察してきました。

普段はあまり意識されない「宣誓文」ですが、そこには職業ごとの価値観や使命感が色濃く反映されています。中でも自衛官の宣誓文には、「危険を顧みず、身をもって責務を果たす」という強い覚悟が込められており、その重みをあらためて実感させられます。

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