陸上自衛隊の偵察用オートバイは、偵察部隊や普通科部隊などで、偵察任務や連絡に使用されるオフロードバイクです。
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現在、陸上自衛隊で採用されている偵察用オートバイは、カワサキのKLX250です。
この車両は市販車をベースに、自衛隊の任務に対応できるよう改造された仕様となっています。
しかし、カワサキはすでに日本国内向けKLX250の販売を終了しています。
近年のバイク業界では、排ガス規制への対応やABS搭載義務化など、さまざまな制度変更を背景に、多くの車種でモデルチェンジが進みました。KLX250も2016年モデルで国内市場から姿を消し、その後継として、排ガス規制やABS搭載など時代に対応したKLX230が登場しました。
KLX250はタイで生産されており、オーストラリアやインドネシアでは現在も販売されています。とはいえ、自衛隊向けだけに日本へ輸入を継続するのは、メーカーにとってコスト面で厳しい可能性があります。さらに、整備用部品の確保も、今後は難しくなっていくかもしれません。
バイク乗りの目線から見ても、その点は以前から気になっていました。
そんな中、陸上自衛隊がKLX250の後継としてKLX230をテストしているのではないかと思われる情報が出てきました。
実は私自身、KLX230に乗っていたことがあります。

そこで今回は、陸上自衛隊の偵察用オートバイの今後と、KLX230が後継候補となり得るのかについて考察してみたいと思います。
陸自が公告した「オートバイの借上げ及び操用性確認対応」とは
陸上自衛隊は一般競争入札において、**「オートバイの借上げ及び操用性確認対応」**という公告を出しました。

内容を見ると、借上げ品目は次のように記載されています。
オフロードバイク(250cc以下)、カワサキモータース KLX230 SHERPA または同等以上のもの
ここで注目したいのは、あくまで**「操用性確認」**、つまり操作性や用途適合性の確認が目的と見られる点です。
この段階では、採用が正式決定したわけではないと考えられます。
要求性能の規格を見る限り、全体としては一般的な250ccクラスのオフロードバイクに近い内容です。
その中で、個人的に特に注目した点がひとつあります。
それが、
「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)をON/OFF切り替えできること」
という要件です。
ABSのON/OFF切り替えが重要な理由
ABSは、舗装路での急ブレーキ時などに車輪のロックを防ぎ、転倒リスクを下げる安全装備です。
一方で、土の上などの未舗装路、いわゆるオフロードでは、ABSの制御が入ることでかえって制動距離が伸びてしまうことがあります。
さらに、ブレーキターンのような、オフロードバイクらしい機動も行いにくくなります。
初心者にとっては安全性を高める装備ですが、上級者や訓練を積んだライダーにとっては、車両の持つ能力を十分に引き出しにくくなる場面もあるわけです。
私が乗っていたKLX230の初期型には、ABSキャンセル機能がありませんでした。
そのため、ABSを無効化したいときは、ヒューズボックス内のABS関連ヒューズを抜いて対応していました。
2018年10月以降、国内ではABS搭載が義務化され、各メーカーともモデルチェンジを迫られました。
ただし、オフロードバイクはその特性上、ABSキャンセル機能を備える車種も多く、リアのみ解除できるもの、前後とも解除できるものがあります。
現在発売されているKLX230シリーズでは、前後ABSをキャンセルできる仕様となっています。
この点は、自衛隊の用途とも相性が良いポイントと言えそうです。
要求仕様の「最低地上高1450mm」は誤記ではないか
もう1点、要求仕様の中で気になったのが、最低地上高1450mmという数値です。
これは、明らかに誤記の可能性が高いと思います。
というのも、全高が950mmとされているため、最低地上高が1450mmでは物理的に成立しません。
おそらく記載ミスでしょう。

オフロードバイクでは、最低地上高は非常に重要な要素です。
最低地上高が高いほど障害物を越えやすく、サスペンションストロークも確保しやすくなるため、荒地や段差への対応力に大きく関わってきます。
レース用のモトクロス車やエンデューロレーサーでは、最低地上高が350mm前後のものもあります。
一方、公道走行可能なオフロードバイクでは、車種にもよりますが、おおむね200〜300mm程度が一般的です。
KLX230とはどんなバイクなのか
ここからは、カワサキの主力オフロードバイクであるKLX230に注目してみます。
カワサキは、日本向けのKLX250を2016年に販売終了し、その後継モデルとしてKLX230を2019年10月から発売しました。
KLX250からの主な変更点は、次のようなものです。
- 排気量は250ccから230ccへ
- エンジンは水冷から空冷へ
- 国内仕様ではABS搭載が標準化
私が乗っていたのも、この初期型です。
当時は大きめのヘッドライトカウルが「少しダサい」と言われることもあり、見た目の評価はそこまで高くなかった印象があります。

ただ、実際に乗ってみると、230ccという数字から想像するほど非力ではありませんでした。
むしろ、低中速トルクがしっかりしていて、元気よく走る扱いやすいバイクという印象でした。オフロードでも非常に乗りやすく、強いパワー不足を感じることはありませんでした。
サスペンションは、リアのプリロード調整が5段階クリック式で、フロントには調整機構がありません。
KLXが250ccから230ccへ排気量を落とした背景には、初級・中級ライダー向けの扱いやすさと軽量化を重視した開発思想があったと考えられます。
また、KLX230は東南アジア市場を強く意識して開発されたモデルです。
インドネシアやタイではKLX150の人気が高く、そのステップアップモデルとしてKLX230が位置付けられていました。

さらに、KLX230には兄弟モデルとして競技専用車のKLX230Rがあります。

このモデルが先に開発され、その後に公道モデルのKLX230が開発されました。そう考えると、KLX230はもともとオフロード性能を重視して作られたバイクとも言えそうです。
個人的な評価をひと言でまとめるなら、
見た目は地味でも、コストパフォーマンスが良く、十分なオフロード性能があり、乗っていて楽しいバイク
という印象でした。
現行KLX230シリーズの展開
その後、カワサキはKLX230にマイナーチェンジや派生展開を加えていきます。

2022年には、サスペンション設定を見直し、シート高を下げて乗りやすさを重視したKLX230Sを発売しました。
さらに環境規制対応の影響で従来型は販売終了となり、現行モデルではフレーム改良や環境規制対応が実施されています。
ヘッドライトも電球からLEDへ変更され、デザインもかなりスタイリッシュになりました。初期型と比べると、見た目はかなり洗練された印象です。
さらにファミリーモデルとして、
- シート高の低いKLX230S
- そのSをベースにハンドガードやスキッドプレートを標準装備したKLX230 SHERPA
- SHERPAをベースにリアキャリア、エンジンガードを追加し、リアホイールをチューブレス化したKLX230 DF
などが登場しています。
特にKLX230 DFは、市販車のままでもかなり自衛隊の偵察用オートバイに近い外観をしています。
KLX250とKLX230の違いを比較する
ここで、KLX250とKLX230の違いを整理してみます。
今回は以下の3車種を比較対象とします。
- KLX250 標準モデル
- KLX230 標準モデル
- KLX230 SHERPA

エンジンの違い
KLX250は、水冷4ストローク単気筒・DOHC4バルブで、高回転・高出力寄りの特性を持ちます。
一方のKLX230は、空冷4ストローク単気筒・SOHC2バルブで、シンプルな構成と低中速トルク重視の特性です。
排気量は249ccから232ccへ、17ccダウン。
最高出力と最大トルクは以下の通りです。
- KLX250:24PS、21N・m
- KLX230:18PS、19N・m
燃費はWMTCモード値で、
- KLX250:29.5km/L
- KLX230:34.7km/L
となっており、KLX230のほうが約5km/L向上しています。
足まわりと装備の違い
サスペンションでは、KLX250が倒立フロントフォーク、KLX230が正立フロントフォークです。
また、調整機能にも差があります。
KLX250は、フロント圧側、リア圧側・伸び側など細かな減衰調整が可能で、装備面では明らかに上位です。
一方、KLX230はリアサスペンションのプリロード調整が5段階のみで、かなりシンプルな構成です。
車体寸法の違い
車体寸法を見ると、次のようになります。
- KLX250:最低地上高285mm / シート高890mm
- KLX230 標準モデル:最低地上高265mm / シート高880mm
- KLX230 SHERPA:最低地上高240mm / シート高845mm
KLX250と比べると、KLX230 SHERPAは最低地上高が45mm低く、シート高も40mm以上低いため、かなり足つきの良いバイクになっています。

KLX230 SHERPAは偵察バイク向きなのか
この比較から見えてくるのは、KLX230 SHERPAがKLX250の単純な置き換えではなく、より乗りやすさを重視した方向の車両だということです。
そのため、偵察用オートバイとして見た場合、KLX250と比べて特に差が出そうなのは、
- サスペンション性能
- 最低地上高
- オフロード走破性
といった部分だと思います。
陸上自衛隊では、装備品ごとに「MOS」と呼ばれる資格があります。
偵察用オートバイも、訓練を重ね、試験に合格してMOSを取得することで操縦できるようになります。
偵察部隊では、駐屯地記念行事などでバイクドリルを披露し、ジャンプ、ウイリー、アクセルターンなど、高い練度を見せることがあります。そうした部隊には、二輪操縦レベルの高い隊員も多いはずです。
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一方で、普通科部隊などでは、そこまで高い走行練度を前提としない運用もあるでしょう。
もしKLX230 SHERPAのような最低地上高の低いモデルが採用されるのであれば、二輪操縦練度の高い隊員にとっては少し物足りなく感じる可能性があります。
その反面、それ以外の隊員や、身長の低い隊員にとっては扱いやすい車両になる可能性もあります。
つまり、このあたりは何を重視して次期偵察バイクを選ぶのかによって評価が分かれそうです。
少なくとも、車高の低いモデルになれば、これまで見られたようなオートバイドリルでの大きなジャンプは、やや難しくなるかもしれません。
まとめ:KLX230は有力候補だが、評価は用途次第
今回の公告内容を見る限り、陸上自衛隊がKLX230系、とくにKLX230 SHERPA級の車両を候補として操用性確認している可能性は十分ありそうです。
ABSのON/OFF切り替えが求められている点を見ると、舗装路だけでなく未舗装路での運用も強く意識していることがうかがえます。これは偵察用オートバイとしては自然な要件です。
一方で、KLX250と比較すると、KLX230 SHERPAはより扱いやすさや足つき性を重視したモデルであり、純粋なオフロード走破性やハードな機動性能では見方が分かれるかもしれません。
とはいえ、運用する隊員の幅広さ、維持管理のしやすさ、現行規制への対応、メーカー側の供給継続性などを考えると、KLX230系が後継候補として浮上するのは自然な流れにも思えます。
今後、本当に採用へ進むのか、それともあくまで試験・評価段階にとどまるのか。
引き続き注目していきたいところです。


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