防衛省から令和8年度、2026年度の概算要求の概要が発表されました。
概算要求とは来年度に防衛省や自衛隊にとって必要な予算をまとめて財務省に提出する予算の見積もりのこと。
新しい装備品の導入や部隊の改編につながるもの、研究開発費用などプロジェクトごとに予算が決められてその内容が公表されます。
我々国民にとって国の予算が何に使われているのか知ることができる資料となっており、なかには自衛官の待遇改善につながる予算なども含まれるので、自衛官にとっても今後のキャリアに関わる内容なども記載されています。
防衛予算を大幅増額 自衛隊を強化する方針へ
ここ数年の防衛予算について解説します。
2022年以前は約5兆円規模の予算が続いていました。
5兆円規模と聞くと大きな額ですが、GDP比で1%以内の予算を維持し、2012年までの10年間は微減傾向の時代もありました。
日本のGDPは過去30年間ほぼ横ばいで、経済成長はしていません。
海外の装備品に頼ることも多い自衛隊にとっては、GDP比1%以内の防衛予算では実質資金面では戦力ダウンしている状況だったと言えると個人的には思います。
(自衛官時代の思い出としては、装備品の老朽化や、特に施設や物品に関してはボロボロな印象)

2023年は1兆円以上の増額がされ、約6兆8000億円、2024年は7兆9000億円、2025年は8兆7000億円の規模となっています。
令和8年度概算要求については約8兆8千億円規模となっています。
これは2022年に国の防衛力を強化する方針が決まったことが影響しています。
具体的には防衛力整備計画というものが決定され、2023年から5年間で43.5兆円を投じて防衛能力を抜本的に強化する方針となっています。
この詳細に興味がある方は国家防衛戦略と防衛力整備計画という文書を確認してみてください。
予算については15の分野ごとに整理されている資料があり、8年度予算について大きく変動している内容については
「スタンドオフ防衛能力」
「無人アセット防衛能力」
「施設の強靭化」
「研究開発」
などが挙げられます。特に無人アセット防衛能力については、前年度から約3倍の予算がかけられており8年度予算の重点ポイントとなっています。

無人アセット防衛能力 SHIELD体制の構築
この分野で防衛省は3128億円を投資し、この中の1287億円をかけて無人アセットによる多層的沿岸防衛体制【SHIELD】を令和9年度中に構築すると発表しました。

陸海空各自衛隊で海上、海中、空中で使用できる3種類の無人機
UAV(Unmanned Aerial Vehicle)
無人航空機
USV(Unmanned Surface Vehicle)
無人水上艇
UUV(Unmanned Underwater Vehicle)
無人潜水艇
を活用した防衛体制を構築します。
陸上自衛隊のSHIELD用UAV
・近距離で車両等を目標とする
小型攻撃用UAVⅠ型
・中距離で敵艦艇などを目標とする
小型攻撃用UAVⅡ型
・遠距離で敵艦艇などを目標とする
小型攻撃用UAVⅢ型
陸上自衛隊はSHIELD体制に向けて3種類の直接攻撃可能なUAVを取得し、情報収集用としてFPV(一人称視点)タイプのモジュール型UAVを取得します。

海上自衛隊のSHIELD用UAV

・艦艇から発射され、敵艦艇等を攻撃するため
の水上艦発射型UAV
・水上艦艇の情報収集・警戒監視能力を向上さ
せるとともに、敵艦艇等を攻撃可能な
艦載型UAV(小型)
海上自衛隊はSHIELD体制に向けて2種類のUAV取得します。
航空自衛隊のSHIELD用UAV

・長距離を飛行し、敵艦艇等を攻撃するための
艦艇攻撃用UAV
・敵UAVからレーダーサイトを防衛するため
のレーダーサイト防衛用UAV
航空自衛隊は2種類のUAVを取得します。
USVとUUV、多数同時管制システム
USV(無人水上艇)については陸自と海自が敵艦艇等の攻撃等のためのUSVを取得し、
UUV(無人潜水艇)については陸自が敵艦艇等の情報収集のためのUUVを取得する計画です。
さらに多数の無人アセットの同時管制を行うための実証試験を23億円で実施する予定です。

SHIELD体制以外でも無人機は大量導入予定

このシールド体制の構築以外の予算では、ISRTと呼ばれる情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング機能の強化として、UAV(広域用)を5セットを111億円で取得します。

これは水上艦艇等を遠距離から早期に探知し、指揮官の状況判断及び火力発揮に必要な情報を収集すると明記されているので、長距離、長時間偵察可能なUAVを取得すると考えれます。
個人的にはこの記載はMQ-9Bシーガーディアンのことかと思ったのですが、これ(UAV広域用)とは別に、滞空型UAVとしてMQ―9B(シーガーディアン)の取得等に770億円と記載があるので、この機体とは別の可能性があります。

8月に中谷防衛大臣がトルコを訪問し、無人航空機を製造しているメーカーのバイカル社を視察したとの報道がある通り、この機体はトルコ製の無人機バイラクタルTB2なのかもしれません。

ほかにもUAV狭域用として、89億円をかけ1000機近い小型ドローンの取得や、水陸両用作戦に寄与可能な水際障害探知UAVの取得をします。
無人機に関する研究開発として、UAVと連携し、AIを搭載した地上走行型の無人機UGVの研究や、次期戦闘機と連携する無人機の研究開発に予算が当てられています。
資料の中ではシールド体制の確立のための具体的なメーカーや機種、運用部隊などは不明です。
またこれだけの無人機を導入するとして、運用方法の確立や訓練、整備などを考えると、令和9年度中までにこの体制を確立するのは、かなり難しいプロジェクトなのではないかと個人的には感じました。
自衛隊観閲式や札幌雪まつりへの自衛隊の参加が中止されるなど、自衛隊関連行事の見直しが報道されていますが、こうした新しい装備の導入のために時間や人を確保する流れなのかもしれません。
短期的には難しいかもしれませんが、海外製の軍事用ドローンを大量に導入するだけでなく、国内の開発企業にも投資しつつ、将来的には防衛関連の無人機や関連パーツの国産化など、国や企業にとっても成長に繋がり、結果的に経済成長につながるような予算の使い方になるといいなと個人的には思います。
スタンドオフ防衛能力
現在自衛隊では、敵の対空ミサイルなどの射程外から発射可能なスタンドオフミサイルの導入を進めています。

このなかで現在開発中の極超音速誘導弾及び地上装置の取得のための予算があてられており、量産化に向けて開発が続けられています。

また令和8年度からは12式地対艦誘導弾能力向上型と島嶼防衛用高速滑空弾が部隊配備予定となっています。

航空自衛隊は航空宇宙自衛隊へ
航空自衛隊は宇宙領域の能力強化のため、航空宇宙自衛隊へと改編し、宇宙作戦集団を設立、SDA(Space Domain Awareness) 宇宙領域把握 の能力を高めるため、
我が国の人工衛星に対する電磁妨害状況を把握する装置の取得に12億円があてられます。

防空体制の強化として、ペトリオットミサイルの改修に79億円、03式中距離地対空誘導弾に弾道ミサイル対処能力を付与するための改修費として51億円が当てられます。
さらに低コストでミサイルに対処するため、レーザー迎撃システムの開発に予算が当てられます。
現在開発中のドローン等対処用レーザーシステムの10倍以上の出力を可能とするメガワット
級レーザーシステムを実現するために必要な技術の研究に10億円が確保されます。

陸自の15師団化、特殊作戦団の創設
陸上自衛隊は敵の早期警戒管制機などに対して電子妨害を実施し、レーダーを無力化する24式対空電子戦装置を配備した部隊を新編し、本格的な運用が始まります。

さらに南西地域防衛強化のため、沖縄に所在する第15旅団に、新たに1コ普通科連隊等を新編し、第15師団へと改編する予定です。
陸上自衛官の定数を見ると、増員する計画はなく、むしろ定数は26年度末にはマイナス281人と公表されていますが、この部隊新編のための人材は本土などの普通科部隊から人材を集めるということになるのでしょうか。

となると人員を差し出す側の部隊としては更に業務量が逼迫していくのでは?と個人的に思ったのですが、このあたりの人員に対する方針がどうなっているのか気になります。

さらに気になった組織改編としては特殊作戦団(仮称)の新編とあります。特殊作戦能力を強化するために、陸自特殊部隊の特殊作戦群と、海外派遣などでの先遣任務にあたる中央即応連隊を一体で運用する方針です。
施設の強靭化に1兆円以上を投資
令和8年度予算では施設の強靭化として前年度から大幅に増額され1兆円以上の規模で予算が当てられます。

まず既存の老朽化した建物の建て替えや、耐震化工事、再配置や集約化に約5365億円が確保されています。
さらに敵からの直接攻撃や電子パルス攻撃などへ対抗するため主要な司令部を地下化したり、戦闘機の駐機パッドを分散化させる計画があります。
既存の建物以外でも、部隊新編や新規装備品の導入にともなう、新しい施設の整備に4107億円が確保されています。
またこの施設の強靭化のなかでドローン対処機材の導入に102億円が掲載されており、駐屯地や基地警備のための、ドローン対処機材の導入が決まっています。
装甲車や航空機など主要装備の調達数
最後に主要装備品の調達数について見ていきたいと思います。
陸上自衛隊の今年の富士総合火力演習で初登場した共通戦術装輪車ですが、24式機動120mm迫撃砲は8両、25式偵察警戒車は18両

10式戦車は8両、AMVは23両と約50両以上の装甲車両の予算が確保されています。
新型多用途ヘリコプターUH-2は、8機の取得に372億円確保されています。
新小銃の20式小銃の取得には57億円が確保され、陸自に1万丁、海自に205丁、空自に2946丁分となっています。

海上自衛隊は新型FFM1隻の建造に1048億円、哨戒艦2隻の建造に287億円、「たいげい」型潜水艦1隻の建造に1199億円、いずも型護衛艦のF35B運用化に伴う改修に287億円が確保されています。
航空機に関しては、P-1哨戒機1機の取得に473億円、哨戒ヘリSH-60K3機の取得に449億円が確保されています。
航空自衛隊ではF-35A、8機の取得に1525億円、F-35B、3機の取得に730億円が確保され、新田原基地の臨時F-35B飛行隊は廃止され、正式に第202飛行隊となる予定です。
また空中給油輸送機KC-46A、2機の取得に912億円確保されています。
まとめ
令和8年度2026年の防衛省の概算要求の資料から防衛省、自衛隊の強化に向けた取組みについて気になった部分に注目してみました。
私が自衛隊にいた頃とは大きく状況が変わり、大幅に防衛予算が増え、新しい装備品の導入や施設工事などが進み、現場の自衛官からすると、モノとカネに関してはスピード感や変化を感じるのが早くなっているのではないかと思いました。
それに対応するヒト(人材や組織)がどう変化していっているのかは、外部からはあまり分かりにくい部分だと思いますが、
ここがどう変化してきているのかも個人的に気なる部分ではあります。
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